小 熊 座 2008年7月 特別作品
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      2008年7月   特 別 作 品


     響  灘    我 妻 民 雄



   日を負ふは何れの遣ひ春の蝿

   野遊びのおとうとはまだ戻らぬか

   亡びしは特牛ごやし馬ごやし

    
特牛。こつとい、ことい。地名。強健な牡牛。下関市に合併。

   風を獲るしかけ林立かぜのくに

   逃げ水に向う岸あり右手ふる

   帰りなん瀬が立つはるの響灘

   陶潜に酔はぬ日はなし鬱金香
  






     鯨  石    大場 鬼奴多



   春あかつきクロの啣へし鹿の骨

   夕空や桜を拝む朽木谷

   レボリューション花の冥さに目もくれず

   ひと恋へば山藤すぐに発光す

   幻の湖底の花を思ふかな

   春暮るるあやとり橋は湯に落ちて

   光陰に目覚めしままの躑躅山







    すこし坂    中 井 洋 子



   枯葦の人の身丈に眠くなる

   薄氷はじつくり溶けること選び

   蛇穴を出づる時刻の澄みきつて

   剥かれゐて筍人の体温に

   朧夜の思ひ通りのすこし坂

   倦怠の色にひろがる苜蓿

   タオルそれも古きもの欲し亀の鳴く







    流  燈    水 戸 勇 喜


   流燈の沖めざすもの縋るもの

   掃立てや回覧板は子の役目

   初味を見しより歩み軽くなり

   久闊を叙する道端桑ほどく

   風うたふ柏落葉の安堵かな

   清明の日曜学校鐘が鳴る

   春泥の紅い鼻緒を憶ひゐる





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