小 熊 座 2008年12月 特別作品
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  秋  袷    遠 藤 のぶ子



 水平の天につながる雲の峰

 象の耳ひらりひらりと秋桜

 難聴の知らぬが仏秋の声

 浄土真宗有髪の僧の秋袷

 神苑に糞許されて親子鹿

 天の川夜釣りの船を誘へり

 文月や修正液は底をつき

 新米を炊いて田の神招き入れ




  冬銀河    菊 池 紀 子



 透きとおるジャムを煮つめる春嵐

 やわらかな雨の音呼ぶ春の声

 春を呼ぶ研ぎし包丁水はじく

 ふんわりと匂い広げぬ蕗のとう
                    
 たんばぼとひとり遊びの莉央(りお)の声

 母という名の豊かさ桃の花

 春嵐昼の鏡のなかに聞く

 都忘れ亡父が奏でるハーモニカ




  切  株    菊 地 巴 洸


 一笛に竿灯百本立ちあがる

 子供竿灯眼をこらしゐる車椅子

 還らぬは囁きとなる秋の汐

 戦死者は大正ばかり秋彼岸

 街なかに馬頭碑残る穴まどひ

 立哨の月しんしんと兵老いし

 隠沼や咽の渇きし月上る

 切株のレコード廻す秋の蝶




   沈み魚    下 野 山 女



 薄闇の茶の花に触れ見廻り

 西高東低漬物石の灰汁光る

 十五階より飛び立てり蟋蟀

 秋探し眼鏡越しの返し縫
 
 芋の露風の便りは誰れかの死

 ビル風に逆らいて飛ぶ秋の昧

 太陽に近づきたくて夏仔牛

 死に際は渓の紅葉のすぎてから






  
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