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  小熊座・月刊 
  


第七回 佐藤鬼房顕彰全国俳句大会嘱目入選句


  【 平成26年3月23日〔日〕  於 ・ 塩竈市エスプホール 】

  嘱目の部の選考は、全選者が参加しての公開討論を経て、以下のとおり決定しました。



  佐藤鬼房奨励賞

     海底の大きな歪みうかれ猫              塩竈市 堀籠 政彦

  塩竈市長賞     

     二度三度初音聞かせて柩閉づ            仙台市 丸山千代子

  塩釜市芸術文化協会長賞               

     鳥落ちて霞の海に抱かれをり             仙台市 浪山 克彦

  塩竈市観光物産協会長賞      

      ここに居て攫はれしかとつくしんぼ          塩竈市 栗田 昌子


  星野椿特選

   第一席   その前もその日も今日も春の月      仙台市 丸山みづほ

   第二席   魂の寄せては返す春の海          仙台市 坂上佐来良

   第三席   潮の香にまだ眠むそうな櫻の芽      大崎市 菊地 白尾


 
 大木あまり特選

   第一席   二度三度初音聞かせて柩閉づ       仙台市 丸山千代子

   第二席   空色といふ不確かさ囀れり          仙台市 赤間  学

   第三席   書きかけのメモの続きの霙かな       郡山市 根木 夏実


  西山睦特選

   第一席   春昼や言葉を発す石七つ          奥州市 伊藤弖流杞

   第二席   三月の供花真白き鳥の群          名取市 佐藤 詠子

   第三席   お彼岸の鬼房小径濡れて行く        利府町 土見敬志郎


  高野ムツオ特選

   第一席   その前もその日も今日も春の月      仙台市 丸山みづほ

   第二席   校庭の底より生まれ春の雲         仙台市 宮崎  哲

   第三席   書きかけのメモの続きの霙かな      郡山市 根木 夏実


  渡辺誠一郎特選  

   第一席   空色といふ不確かさ囀れり         仙台市 赤間  学

   第二席   鬼房と虹色マグロの背に乗らん
      仙台市 水月 りの

   第三席   胸あけておく三月の海の陽に        仙台市 佐藤きみこ



  髙柳克弘特選

   第一席   春燈や更地のなかに理髪店        大崎市 佐野 享保

   第二席   鬼房と虹色マグロの背に乗らん      仙台市 水月 りの

   第三席   鬼房は雨の化身か紅梅か         仙台市 坂内 佳禰



  神野紗希特選

   第一席   松島の浜です若布干してます       福島市 清家 馬子

   第二席   少年四人春満月のすべり台        仙台市 松本ちひろ

   第三席   対岸に届かぬ礫蘆の角          仙台市 山内 栄子



  照井翠特選

   第一席   鬼房もムツオも蝦夷春怒濤        奥州市 鎌倉 道彦

   第二席   囀に波の穂さきの光りて来         仙台市 齋藤 伸光

   第三席   春昼や言葉を発す石七つ          奥州市 伊藤弖流杞



  佐藤成之特選

   第一席   空色といふ不確かさ囀れり         仙台市 赤間  学

   第二席   鳥落ちて霞の海に抱かれをり        仙台市 浪山 克彦

   第三席   二度三度初音聞かせて柩閉づ       仙台市 丸山千代子



         
              嘱目の部公開選考会





  第七回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会参加記①


   小熊座の樹林と萌芽

                                            すずき 巴 里

  東北本線・塩釜駅に到着。ボタンを押して自分で電車のドアを開ける。

  長閑な春の日であった。

  毎月届く「小熊座」誌は、文筆・俳筆共の精鋭揃いに多くのことを学ばせて頂いており、

 今日はお世話になっている方々にお礼を申し上げたく、お目にかかれるのも楽しみの一つ

 である。

  鬼房大会には多くの小・中・高生も参加しており、表彰の檀上には入選の現代っ子たち

 が誇らしげな表情で並び、文芸に育まれてゆく少年・少女たちの豊かな日々が思われた。

  ジュニアの部・佐藤鬼房奨励賞

   箏の胴ふれれば竜の冷たさよ     高二 青本瑞季

  高柳克弘氏の選評は「今・ここ・我に立脚しながらも、ここだけに縛られない想像力で広

 がり、深い」と核心に触れ、温かかった。

  一般の部・佐藤鬼房奨励賞

   下萌や生きてゐるもの手を挙げよ  我妻民雄

  あの日から三年、不条理の混沌の後に、ようやく発した声が「下萌」の上を流れる。平明

 な詠みが一層、胸に沁み入り、今日の大会に相応しく思われた。

  シンポジウムのテーマは「鬼房俳句と愛について」であった。神野紗希氏は「鬼房の、描

 写に徹しようとする含羞と生命讃歌」を、矢本大雪氏は「敗戦の空しさが投影された孤独感

 の中、俳句に立ち向かっており、愛に溢れている」と、それぞれ提言された。

  関根かな氏は、「硬質な句材と柔らかな安息」 そして、「かまきりの貧しき天衣ひろげた

 り」について、「飛ぶことに至らぬかまきりの翅への愛」を認められたが、宇井十間氏は、

 「かまきりの句は無防備で読者におもねるものであり評価しない。鬼房句に愛は無い」と反

 論に持ち込んだところで時間切れとなり、これ以上の言及に至らず残念。鬼房大会におい

 ての鬼房の作品に対する見解の多様は興味深く、予定調和をしない企画に、極めるとは

 こういうことだろうと感心し、次回が待たれる。

  招待選者は、星野椿氏を主選者に、伝統俳句・現代俳句などの垣根の無い、懐の深い

 運営であるのも流石と感嘆する。

  当日の公開選考においては、参加者の短時間のうちの嘱目吟作品について、闊達に選

 者各氏の意見が交わされ、実に真剣に公正に選が行われ、選のあるべき姿を目前にし、

 心地よかった。

  昨年、調布市で高野ムツオ主宰の講演をお聞きした。震災時の状況、俳句の生まれた

 現場、スライドを交えての貴重なご講演であった。また、高野主宰ご指導のベトナム俳句

 紀行に参加の機会を得、超結社の初顔合わせ十二名と、充実した七日間を経験させて頂

 いた。

  高野ムツオ主宰の展開される俳句ワールドはいつでも何処でも実に広やかで、且つ深い

 ものであった。

  「俳句の力・無名の力」をいたる所で実証され、光を当てようとしておられるのである。

  俳句という文芸を、広め、高め、極める、という教育者としての信念と使命感が根幹にあ

 ってのことと推察され、その尊さに頭が下がる、そしてここに出会えたことの幸せをしみじ

 みと有難く思うばかりである。

  翌日は、お疲れにもかかわらず、主宰自ら被災の島・寒風沢島や溺谷の鬼房小径をご

 案内下さり、また、鬼房氏のお嬢さんと、鬼房氏の墓前にお参りもさせて頂いた。

  みちのくにおける気骨と師系の脈々を肌で感じる温かい時間であった。

  高野ムツオ主宰は第六十五回読売文学賞に続き、第四十八回蛇笏賞をも受賞された。

  誠に祝賀に堪えず、その輝かしい業績を渡辺誠一郎編集長始め、会員全員が力強く支

 え、その結束こそが「小熊座」結社の前進に繋がっていることと(たが)の確かさを見る

 思いである。

  今頃は桃も桜も一度に咲いている頃だろう。

  小熊座の堅固な樹林と、その豊潤に育つ萌芽、そのことごとくが眩しい大会を経験させ

 て頂いた。

  皆様、有難うございました。





  第七回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会参加記②


   春 の 雪


                                            鎌 倉 道 彦

  三月二十三日。今日は、第七回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会である。水沢は早朝から春

の雪が降っている。水を含んで、雪は重そうにぼたぼた落ちてくる。見る見る積って来た。

  二日前もそうだった。あっと言う間に二十センチ積った。スコップで掬った雪が重い。一

 掻き一掻きが腰にズシッ、ズシッとくる。つい先日まで、大雪でも平気に雪掻きをしていた

 のに。と、思いながら掻いた。が、重さに耐えきれずにスコップを置いた。諦めて、自然に

 溶ける時を待つことにした。

  そんなことを思い出しながら、朝の暗い雪空を見上げた。止むことなく雪は落ちてくる。塩

 竈の空は。と、気になりながら駅に向かった。ホームは雪と風で寒い。春なのに岩手はま

 だ雪だ。五分ほど待ったのだろうか、遠くに電車が見えた時、東の空が明るくなってきた。

 雪雲が切れ、朝日が顔を出したのである。ほっとして、電車に乗り込んだ。

  二時間ほどで、塩竈駅に着いた。薄曇りであるが、やはり暖かい。俳句大会会場では、

 すでに受け付けが始まっていた。事務局員、小熊座のスタッフの方々が忙しく働いている。

 小中学校の子供たちが、引率の先生の後に緊張した顔で並んでいる。その光景に心が和

 らぎ、朝からの不安が消えていた。

  定時に大会が始まった。開会行事が終わり、ジュニア部門の披講と表彰である。来賓の

 挨拶の中でも紹介のあった小学生の句

    雲間からさしこむ光は春の息

 に感心した。神野紗希先生が「発想が良い」と評していた。なるほど面白い、春の息と言い

 切った表現に感服した。毎回、このジュニア部門の作品に驚き、勉強させられている。今

 回、照井翠先生特選第一席の

    粉雪や黒い海見る背のふたつ

 
に感動した。今年も多くの瑞々しい感性に出会い、俳句への決意を新たにした。

  続いて、シンポジウム「鬼房俳句と愛について」が始まった。司会は大場鬼怒多氏で、パ

 ネリスト四人がそれぞれ選んだ三句を中心に進んだ。鬼房について何も知らない私にとっ

 て、このシンポジウムは鬼房に触れる唯一の機会である。どんな声だっただろう。どんな眼

 差しで、表情はと、毎年シンポジウムが終わる度、想像していた。武骨・実直。蝦夷の気概

 そのものと思っていた。討論が進むにつれて、その妄想が崩れ始めていた。私は鬼房の

 骨太の句に魅かれていたからかもしれない。また、鬼房の一面を知ることができた気がす

 る。一度、生の声を聴き、会って話してみたかったと切に思う。残念である。

  最後は、当日の嘱目句118句の公開選考である。事前に渡されたプリントを見ると、素

 敵な句が並んでいる。選者の先生方はどう詠み、評価するのだろう。選考が楽しみになっ

 てきた。選者九人の票の読み上げから始まった。それが予選通過句である。選が進むに

 つれて、句の詠み方、解釈の仕方などになるほどと納得するばかりである。次々に賞が決

 まり、表彰式に移った。少々ごたごたしたが、和やかで係の人々の温もりを感じた。格式

 ばった式より、この手作り感が好ましく思われた。特に、階段の上り下りに苦労している受

 賞者の為に、選者の先生が壇を降りて賞を差し伸べている姿に温かさを感じた。

  大会が終わると、外は日が陰り始めていた。近くの居酒屋で懇親会が行われた。喜んで

 参加した。皆、達成感と安堵感に満ちた顔でグラスを傾けている。大会の話で盛り上がり、

 俳句の話が飛び交っている。私はその中にどっぷり浸りながら、充実した一日を振り返っ

 ていた。そして、高野ムツオ主宰はじめスタッフの方々のご苦労に、感謝の気持ちでいっ

 ぱいだった。また来年参加しよう。と決意しながら座を立ち、電車に飛び乗った。

  朝、春の雪に悩まされた水沢も道路の雪が消えていた。雲の切れ間から、星が輝いてい

 る。その星も昨日までのように凍てついてはいない。光がどこか柔らかい。春が来ている

 のだ。今日は枕に頭を置くと、すぐに夢の中に落ちてゆくだろう。心地よい疲労を感じなが

 ら、家路を急いだ。




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