小 熊 座 2015/7   №362  特別作品
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      2015/7    №362   特別作品



        雁帰る他         越 髙 飛驒男


    あくまでも口惜しい色を桜餅

    如月や精神果つる日はいつか

    逢いたくて四月一日大魚句碑

    初蝶と人差指と生まれたる

    富士火口花冷中国観光団

    陸になき惨禍の船や雁帰る

    家並なき国を離れる雁の声

    四顧に眼を光らせ帰る雁の長おさ

    流れゆく低頭の人雁帰る

    人はみな影となりゆく帰る雁

    腸は日本の湿り雁帰る

    肝胆を照らし合うなり雁帰る

    みひらいて帰雁の眼炯炯と

    橋がある雁を見送る橋がある

    陸橋はかりがね送るための橋

    雁送る中天に声とどかねど

    陸橋に人知れず雁送りたり

    幻の声となりゆく帰雁かな

    一睡のまぼろしとなり雁帰る

    中天に雁なき日なり雁を恋う




        揚雲雀          髙 橋 森 衛


    陽炎の中に広がる少年期

    天空に踊り場のあり揚雲雀

    雛罌粟を摘めば楊貴妃顕れる

    メールするよう蜆は砂を吐く

    白い山吹海馬の中に咲く

    雑誌の盗み読み金魚を気にして

    原稿の升目を抜ける若葉風

    水温むひかりの音符殖やしおり

    麦の風スコットランドを連れてくる

    雉子啼いて夢の中より戻される

    じゃがいもの花の容に北海道

    藪の早蕨手品のよう生える

    サングラス掛ければ見える二心

    春の闇人がひとでは居られない

    踠くほど岸の遠のくあめんぼう

    帚木色づき志功の絵となりぬ

    天と地をひっくり返す燕かな

    蝸牛身の内にある切り通し

    検診のBCばかり春愁い

    饒舌な雲雀を包む青い空




        ハモニカ        牛 丸 幸 彦


    ハモニカの明るさで足り去年今年

    着ぶくれの中身の軽さ風が知る

    白鳥を容れたる沼の大気かな

    塔台は影持たぬ白春惜しむ

    音連れて人に近づく春の川

    春帽子かぶる翼を着けるごと

    啓蟄や押されて伸びるシャープペン

    はしゃいでるトンボ鉛筆春一番

    薄氷に乗るときふっと浮かぶ顔

    亀鳴けりうっかり動き過ぎており

    ぶらんこを揺らす屈伸すでに意志

    つぎつぎと手を上げている山桜

    失恋の受け入れ難き昼寝覚

    在るはずの山現るる刈田かな

    柚子の香や闇を濃くする女の手

    梨の汁油断のごとく溜まりおり

    一人では渡れなかった大枯野

    大枯野来て新しき道しるべ

    残り香の柚子の余力と長湯せり

    かぶるたび背丈縮める冬帽子




        木瓜の花         八 島 岳 洋


    木瓜の花齢重ねしこと忘る

    骨片がきらりと光る花ふぶき

    厄年はもう来ないだらう亀が鳴く

    大君の醜の御楯も老い耄るる

    蟬しぐれ女房殿は行方不明

    草千里草もひれ伏す青嵐

    船を曳く舟が入りくる朝曇り

    セシウムの浜船虫の右往左往

    被災地に嗚咽をもらすほととぎす

    上高地瀬音に揺るるハンモック

    茸山崩れて狂気の水奔る

    産むための光が奔る下り鮎

    馬が行く花野の径は塩のみち

    南天に実がつき盆栽らしくなる

    だんだんと限界集落木守柿

    曼珠沙華色濃し隠れ放射線

    消えかけて雫の垂るる春の虹

    鎮魂の鐘一斉に花馬酔木

    陽炎になるまで浜に立ちつくす

    浮島のごとし西日の漫画館






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