小 熊 座 2017/12   №391  特別作品
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      2017/12    №391   特別作品



        天上大風         阿 部 菁 女


    霧の海見てをり二羽の鷗どち

    砂浜に流木空に帰燕かな

    満潮の海を彼方に曼珠沙華

    海女が畑間引菜白き砂こぼす

    越後路の紫淡き野菊かな

    溝蕎麦や北国街道荒れつづく

    天領は寺多き町初紅葉

    足下に摘めよとばかり赤のまま

    観音堂吹き抜けるなり萩の風

    勾欄に花終へし萩垂れてをり

    「天上大風」地に虫時雨降るやうに

    星とぶや出征のこと耕馬にも

    両肩に満天の星負ひ来たる

    野分過ぐ島影著き朝の佐渡

    栗の毬針逆立てて抗へり

    薄皮を剥くぎんなんの萌黄色

    柿の皮日向に広げ寺の昼

    観音の御衣の裾のきりぎりす

    秋深むあけびの皮の紫も

    軍馬らに地平を染めて草の花



        望 郷         土 見 敬志郞


    爆音は日暮より来る夾竹桃

    一湾に晩涼の波たち上がる

    草濡らす音を持たざる半夏雨

    刃を入れて白桃に陽の豊かなり

    ふるさとの茅花流しに吹かれゐる

    遺言の椅子沖を向く晩夏光

    日盛りのどこかに潜む矢尻かな

    原子炉に弘法麦の屹立す

    夏野来し疲れ静かに土不踏

    鳩尾に水の音ある広島忌

    百畳の中の孤独や夏座敷

    帰還困難区夏草の繁るのみ

    大音響の果ての滴りかも知れぬ

    麦秋や砂押川に夕日溜め

    滴りの光りが生みし水輪かな

    鬼やんま望郷のごと肩に来る

    静かなる太陽とあり厄日かな

    鰯雲自転しづかに水の国

    百畳に仏のおはす稲光り

    陽が回る木椅子と秋の金魚かな



        紋黄蝶         千 葉 百 代


    振り向けば君のほほゑみ野紺菊

    稜線の芒こぞりて渓のぞく

    巌より終の一頭紋黄蝶

    力草凭れて傾ぐ石仏

    秋の甌穴川蟹の腹を乗せ

    自転車の女人の旅や草紅葉

    秋蝶へささやきかける摩崖仏

    銀杏や熟れて大樹は眠り初む

    行き場なき一声や残る蟬

    風からみ彩からめつつ散落葉

    異国語の嬌声で足る渓紅葉

    遠目には英字の句碑と毒茸

    走り根のどこへ向かふやそぞろ寒む

    香煙に秋思白眉の尻あげて

    喧噪も吸ひこみ池の水澄めり

    常高堂よりの奥庭秋気澄む

    床下に茸こぞりし能舞台

    蒼天や草屋に垂るる百目柿

    結界の家紋に覚え荻の風

    白鳥は世界遺産の地に立てり



        六地蔵         武 田 香津子


    草眠るときの蒼白夏の月

    土踏まず涼し入道雲の下

    煮え滾る土鍋土用の遠き日に

    髪切って夕空晴れて桐の花

    六地蔵葉月の日射し痛いほど

    六地蔵島には島の稲雀

    天地の境の空地金葎

    雨払う風にはずんで蓼の花

    百日紅閑かに暗き硝子窓

    塩竈の坂道乾く曼珠沙華

    青葉木菟夕べ海から雲湧いて

    老犬は人に連れられ鰯雲

    鰯雲おとうとからの贈物

    天までの途中坂道後の月

    巡り合い又擦れ違い蛍火は

    太陽系第三惑星天高し

    おおかまきり羽衣開く風一朶

    複眼は地球に自在鬼蜻蜒

    糸蜻蛉翅の整う草の先

    木洩れ日と風の戯れ四十雀



        学び舎         佐 竹 伸 一


    長靴の列粉雪を蹴散らかし

    猛吹雪固まって来るランドセル

    おはようと雪払い合うランドセル

    歌に乗り回るお手玉春を待つ

    投げ独楽の紐の一閃声上がる

    一斉に開く子の傘春隣り

    練習帳終える日近しシクラメン

    軽快に赤ペンの◯春隣

    大朝日岳卒業の子らの上

    通る子のなき春休み道祖神

    春光や新班長が背を伸ばす

    雀の子一年生は話し好き

    青嵐腕に自傷の女の子

    競り負けて拳握る子若葉風

    担任は笑わせ上手蝸牛

    子が唄うおむすびころりん青山河

    夏の霧木立に響く子らの声

    首にタオル肩に水筒雲の峰

    夏休みへと弾みゆくランドセル

    校長の机の上のかもめーる




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