小熊座 句 集
 紙 雛  丸山千代子
      


文學の森
定価 2593円+税

    
 『紙 雛』    丸山千代子


 丸山千代子(まるやま・ちよこ)

 昭和 7年  台湾台北市生れ
 昭和12年  父急病のため他界。日本に引揚げる
 昭和26年  宮城県第二女子高等学校から東北大学教育学部 英語
        専攻入学
        卒業後、平成2年まで中学校教員
 平成12年  「きたごち」入会。柏原眠雨先生に師事
 平成24年  「小熊座」入会。高野ムツオ先生に師事

 現 在     宮城県俳句協会会員
        宮城県現代俳句協会会員

 


  瓦礫より音なき音や初明り


   ここでいう瓦礫とは、いずれも何らかの形や用途をもって人々の

  生活を支えてきた事物のことだ。それが今は単なる石塊、無用の

  ものとなってしまった。そして、深い闇に覆われ山なしている。し

  かし、しだいに昇る初日によって、まるで蘇るように音なき音を生

  み始めたというのである。瓦礫もまた蘇生するのだ。何事にも前

  向きに生きてきた千代子さんの長年の生きる姿勢が生んだ佳句と

  いえよう。

                    高野ムツオ 帯(序)より 




   
高野ムツオ 十八句


  紫陽花の雨に始まる母の文

  母の背に風の集まる大根漬


  栗電の冬日の匂ふ木目床

  終電に一人座りし寒さかな

  薫風や空中都市の石畳

  ここがあのガス室跡地草茂る


  メッカ向く少女のミイラ秋桜

  岩海苔の乾く音する被災の地

  地震後の無人の軒の大氷柱

  夏帽を胸に被災の島に佇つ

  幼霊も渡れ大虹消えぬ間に

  蝌蚪の国津波に攫はれたるもあり

  泥かぶりし教室を抜け青田風

  渚より螢となりて帰り来よ


  被災地の泥をくはへて初燕

  瓦礫より音なき音や初明り

  空襲と津波を逃れ今日の雛

  みちのくの花に無傷の日は来るか





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