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2024/10 №473 特別作品
鳳仙花 髙 橋 薫
燕の子今日の朝日を忘れまい
空き缶を攀じ登る蟻避ける蟻
ありんこの缶の穴より見ゆる空
手のひらの青亀の海揚花火
水面の光のみぎわ糸とんぼ
東京タワーの直通階段風の音
発作などなかった如く蚯蚓
羊水に浮かびしゃっくり昼の月
風絡み纏い解けて黒ぶどう
星屑を癒すゆりかご葉月潮
鳳仙花撃つべき時は撃つ
朝霧の音と匂いと肌ざわり
燃え尽きた星ちり散りに銀木犀
石榴割れて夕波の帰るところ
夕暮れへやんま眼玉の青深め
風の名残り集めれば翁草
両の手で握手をすれば色葉散る
許すとか許さないとか落葉風
それぞれの席を目掛けて木の実落つ
星空に松ぼっくりの傘開く
ファスナー 千 葉 悦 重
船の名は船主の名や島の秋
炎天の日本列島軋みけり
娘に譲るトンボ目玉のサングラス
回覧に稽古の知らせ盆踊
囓りつく夕日の色のトマトかな
順番待ちの給油スタンド蟬時雨
海風が目覚まし代わり母の家
朝の日や川に浮かびし花火屑
仏壇に菜園育ちの瓜の馬
巡航船の最後の客は墓参客
盆の客長女家族と犬二匹
ファスナーに夫の手を借り小鳥来る
誕生日の予約取れずや鱧料理
帰省せぬ子にも備えし飯茶碗
明日採る最後の胡瓜曲がりおり
祭終えし角いつまでも子の尾灯
緑陰や隠れ遊びの赤リボン
帆前掛して張り切る夫や芋煮会
二人して日傘を差して女学生
浜の家カンナはすべて海へ向き
草刈 大久保 和 子
紋付の祖母の袖引き入学す
鼻見て聴けと無学の祖母のこゑ涼し
父にも母にも祖母はなりきや夏の月
逝きて識る愛されたこと良夜なり
今さらのやうに祖母恋ふ蟬時雨
ばあちやん子の私を愛す茄子の花
異父妹も異母弟もゐて吾亦紅
会うて知る一重は母似金魚玉
母に初めて名を呼ばれた日風死せり
昔話を語るは草を刈ることか
先日仙台文学館主催「ことばの祭典」に参加、席題「鼻」で思いがけず
堀田季何さんの選をいただいた。締め切り間際にふと想い出した七十年
前の小学校入学式の景色。受付に並びながら祖母は私に「先生の目ば
見っと睨みつけでるようになっから、鼻を見で聞ぐんだど」と。常に割烹着
姿の無学だった祖母でしたが、このときは黒紋付き姿で特別に見えたせい
か、その袖を摑みながら聞いた言葉が蘇った。そのままを句にしたのでま
さかの受賞でした。堀田さんは賞状を手渡す時目を細めてにっこり微笑ん
でくれた。私は選んでいただいた感謝の気持を素直に微笑で返した。この
数秒で堀田さんの優しさにふれた気がしてたちまちファンになってしまった。
そして入学前後の出来事がいろいろ想い出された。
翌日、庭の紫陽花を手に祖母の墓参りをした。報告をしながら、入学式の
日の祖母の安堵した心を、初めて知った。五十六歳の若い祖母が、あの日
確かにいた。 (和子)
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