小 熊 座 2026/8   No.495  特別作品
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特別作品

2026.vol.42 No.495

喜寿

大久保 和子

  • だるまさんころんだ梅雨入りはまだ
  • みちのくの熊に熊鈴すずしかれ
  • 蟻の列だれにしたがふ訳でなく
  • 政宗の三万冊や梅雨に入る
  • あくがれの薔薇でなくただ愛すべし
  • 垣根越しバラ触れ逢うて咲き逢うて
  • 乳吸ふ児のちから痛くも雨後の薔薇
  • 日にも月にも掌を合はす母茄子の花
  • 吾の知らぬ母を知るひと未草
  • 破水してしまふ春夜のタクシーに
  • 透きとほる胸に見覚え蟬翔てり
  • 遺伝子に逆らふつもり麦の秋
  • 万緑や猫に持病の告知あり
  • 青しぐれ爪伸びやすくなりにけり
  • 風鈴やあれはあの日の風のをと
  • 後期高齢者のあしのふらつきなめくぢり
  • 大根の辛みを覚え喜寿に入る
  • 喜寿に入る赤い草履の素足かな
  • しじゆうねん過ぐれば亡夫は 白玉
  • 金魚玉ことほどかやうに老いにけり

衣擦れ
―― 映画「国宝」

小田島 渚

  • 紅を引く男の背中涅槃雪
  • 雪解川拳のなかにある弾丸
  • 荒東風の鳥居や魔物とのディール
  • 田中泯脊柱起立大円筋
  • 口上の赫き口より牡丹散る
  • しらがねの風雨が絡む鷺の脚
  • 心中の足裏白く蒲筵
  • 昏きはう昏きはうへと蟾蜍
  • 鬼となる苦しき声や木下闇
  • 衣擦れの音に死螢よみがへる
  • 天網の歪み海月の脚そよぐ
  • 秋扇十五になりて口閉ざす
  • 舞台消ゆ望の月より雫落ち
  • 墓参不意に他人の顔の父となる
  • 釣鐘は煮え滾る鉄近松忌
  • 凍鶴や閨の残響降らしむる
  • 冬麗の鏡に目鼻喪へり
  • 木菟の羽根広げ切り死ぬ覚悟
  • 御降や血族の血の手の震へ
  • 瓜二つの二人立ちたる荒凍土

臍の窪

中村 すじこ

  • 少年の鎖骨に余白蝶生る
  • しゃぼん玉越しの世界に父がいて
  • たんぽぽの絮は神なり羊蹄山
  • アルコールランプの火から夏来る
  • 蜘蛛の囲や命の充満して孤独
  • オルガンは息を吐くもの麦の秋
  • 酒好きの龍は阿の口梅雨兆す
  • 青梅や母に会いたし臍の窪
  • 風を呼ぶ神を祀って六月来
  • 花嫁は妹マーガレットたわわ
  • 万緑に囲まれ痛痒い小指
  • 徘徊の毛虫を保護す准教授
  • 梅雨寒のショパンは甘すぎて重い
  • 子を孕む土偶を虹の根元かな
  • 樺太の夢をむさぼり夜盗虫
  • 姫女苑ゴリラの檻にゴリラ無し
  • 弱点はいそぎんちゃくの地球かな
  • でたらめな時間のビール旅の途中
  • 龍宮へ行こう白シャツ濡れぬよう
  • 終わりの告白夕焼まだきれい
 

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