小 熊 座 佐藤鬼房 50句   高野ムツオ抄出
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名もなき日夜 (昭和26年刊)

むささびの夜がたりの父わが胸に

かまきりの貧しき天衣ひろげたり

毛皮はぐ日中桜満開に

切株があり愚直の斧があり



夜の崖 (昭和30年刊)

青年へ愛なき冬木日曇る

縄とびの寒暮いたみし馬車通る

怒りの詩沼は氷りて厚さ増す

齢来て娶るや寒き夜の崖



海溝 (昭和40年 「天狼誌上掲載」)

馬の目に雪ふり湾をひたぬらす

吾にとどかぬ沙漠で靴を縫ふ妻よ



地楡 (昭和50年刊)

月光とあり死ぬならばシベリアで

陰(ほと)に生(な)る麦尊けれ青山河

ひばり野に父なる額うちわられ



鳥食 (昭和52年)

鳥食のわが呼吸音油照り

野ぶどうに声あり暗きより帰る



朝の日 (昭和55年刊)

生きてまぐはふきさらぎの望の夜

年立って耳順ぞ何に殉ずべき

艮に怺へこらへて雷雨の木



潮海 (昭和58年刊)

なぜポオの詩なのか朝の蛍籠



何處へ (昭和59年刊)

新月や蛸壺に目が生える頃

宵闇のいかなる吾か歩き出す



半跏坐 (平成元年刊)

雪兎雪被て見えずなりにり

秋深き隣に旅の赤子泣く

壮麗の残党であれ遠山火

半跏坐の内なる吾や五月闇

蝦蟇よわれ混沌として存へん



瀬頭 (平成4年刊)

鳥帰る無辺の光り追ひながら

露けさの千里を走りたく思ふ

長距離列車
(ブルートレイン)のスーパークを浴び白長須鯨

おろかゆゑおのれを愛す桐の花

みちのくは底知れぬ国大熊
(おやじ)生く

余命なきわが沸点の雪解風

春蘭に木もれ陽斯かる愛もあり

残る虫闇を食ひちぎりゐる

除夜の湯に有難くなりそこねたる



霜の聲 (平成7年刊)

老残や時を超えたる花であれ

羽化のわれならずや虹を消しゐるは

縄文の漁
(すなどり)が見ゆ藻屑の火

海嶺はわが栖なり霜の聲



枯峠 (平成10年)

帰りなん春曙の胎内へ

時絶って白根葵に口づける

むきだしの岩になりたや雷雨浴び

北溟ニ魚アリ盲ヒ死齢越エ



愛痛きまで
 (平成13年刊)

いつの世の修羅とも知れず春みぞれ

日晩(ひぐらし)をもて病巣を濯がばや

流氷に乗り来て居場所失へり

年首荘厳死もまた然り死は怖し

またの世は旅の花火師命懸

死後のわれ月光の瀧束ねゐる



未刊

翅を欠き大いなる死を急ぐ蟻







  
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