小 熊 座 2019  高野ムツオ  (小熊座掲載中)
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     2020年 2月   新 月     高 野 ムツオ


    祖もその祖も虹色蠅の翅

    蠅取リボンこれリボンかと蠅喘ぐ

    螢火や子返しの闇幾重にも

    やませ這う赤ん坊にも遺影にも

    まくなぎに首を竦めて親不孝

    攫われし子の顔となり大花火

    妻子には妻子の未来夜の雷火

    黒揚羽その弾力が頭上より

    国老いてなお海月なす漂える

    朽縄はくねりて動く晩夏光

    天の川その一端のバスタオル

    ハムの断面星河となりて動き出す

    銀河系宇宙の声ぞ蚊の声も

    土蜘蛛か二百十日の天井に

    味噌汁に目玉が映る今朝の秋

    秋風や縛られ飛べぬ新聞紙

    秋風やことにポストの赤に沁み

    落鮎の光の手足簗を打つ

    冷凍まぐろ時々星が流れおり

    露草を踏めばたちまち河童子

    海底火山あまた並べて草の絮

    瞳孔に蝦夷野紺菊悪路王

    津波とは漂浪(され)きし波か彼の世より

    誕生よりここは遊星糸蜻蛉

    虫の夜の地球あえかな涙粒

    高潮へ鉄壁なせり虫の声

    国史ありて虐殺史なし虫の闇

    虫の闇虫の眼の中にこそ

    便所こおろぎ跳梁跋扈また跋扈

    新月や狂死の猫と餓死の牛

    不知火が常磐沖になぜ点る



     2020年 1月   蒜香郷 2     高 野 ムツオ

             
―原郷栗原岩ヶ崎の古名、蛭子神を祀る―

    蠅叩く赤銅色の父の唇

    廃絶の一男根として汗す

    水飯に噎ぶ父捨て母を捨て

    旱田の亀裂が血脈朝日浴び

    そのたびに位牌が見える稲光

    孫太郎虫呑み込み眠る天の川

    冷飯はよく嚙みよく呑め秋の蟬

    蟋蟀や死ぬまで続く覗き癖

    稲の香に眠る一揆の裔として

    鉱山史とは鉱毒史虫の闇

    鰈の粗舐れる祖母の舌美し

    蘆の花水子も壜も口丸し

    桃の木の夢に生まれし冬の雲

    もう虫の声ではないが冬の虫

    凩や馥郁と月孕みおり

    山道の冬日溜りが母の臀

    包丁に残る葱の香星の音

    緒絶えし野田玉川冬の月

    杉山は母の胎内初明り





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