小 熊 座 2021  高野ムツオ  (小熊座掲載中)
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     2021年 12月   炒 飯    高 野 ムツオ


    国家より透明であり虫の闇

    電気コード真葛原を這い出せる

    炒飯は宝の山や天高し

    轢死せし蟷螂の腹宇宙大

    木の実降る滅ぶほかなき人類へ

    十三夜駐輪場の銀輪も

    澎湃と蘆の穂絮が地球発つ

    露草は書かれる前の文字である

    野ざらしの鉄材露を鎧とし

    混凝土製であれども露の家

    虫の音のその塊が聖塚




     2021年 11月   鰭      高 野 ムツオ


    ポケツトを出たきスマホや雲の峰

    翅欠けてより本物の黒揚羽

    鬼やんま路上に死してなお途上

    金銀の鰭宵闇の沼底に

    月光を形にすれば銀杏の木

    つかのまという長さあり秋の草

    秋天の鷗溜まりにまた一羽

    出来秋の鷗の声が湧くところ

    霧籠めの鷗の卵夜明け前

    攫われし船の艪の音曼珠沙華




     2021年 10月   夜 露    高 野 ムツオ


    殺虫剤と共寝をすれば汗が噴く

    天泣の二粒三粒稲の花

    原子力よりも夜露の想像力

    どこをどう潜つて此処へ藪枯らし

    霊界へ戻る途中か桃重し

    悪徳の一徳として桃を吸う

    いわし雲の全重量を胸の上

    夜汽車過ぐ盗汗の肋骨の上

    一湾のさざなみすべて虫の声

    背景は虫の闇とすわが遺影




     2021年 9月   水の上     高 野 ムツオ


    頭を抜ける電車の音や聖五月

    葭切や泥は自ずと動き出す

    ビルの隅にビルを見上げて松葉菊

    父の日の天窓過ぎる鳥の影

    銀やんま久那土の神の水の上

    十薬や袋小路の上の空

    十薬の十字消えおり忽然と

    トラックも翼軋ませ熱帯夜

    生ビールまもなく滅ぶ星に棲み

    斯かる愛あるべし夜の梅雨の川




     2021年 8月   堤      高 野 ムツオ


    雪の木に星を生み出す力あり

    背鰭尾鰭胸鰭ありて浮氷

    朧夜の木の根何処へ延びている

    抱かれる村の悦楽雪解靄

    太陽を孕みて動く雪解靄

    花屑の骨片となり動き出す

    海底を匍匐するごと鹿尾菜喰う

    花冷か新型ウイルス冷なのか

    声出せば我も土塊桃の花

    菜の花や雨の堤が冥府まで



     2021年 7月   蘆 牙    高 野 ムツオ



    白鳥の声原子炉の世に響む

    出力は無限吹雪の夜の白鳥

    白鳥の妻呼ぶ声を冥福に

    垂り雪この地で死ねとまた垂る

    沫雪や骨と化しても廃炉まで

    相馬長持唄と相馬の春を待つ

    春の海揺籠なれば死者戻せ

    蘆牙や三千六百五十日

    三月の波に金泥なす日なし




     2021年 6月   寒夕焼    高 野 ムツオ


    科学の子寒夕焼に四散せり

    雪積んで制御不能の世を生きる

    詩に淫し炉心溶融する雪夜

    被曝して切株雪を吸つている

    皹の指を噴き出す血もマグマ

    氷る夜を疾駆す相馬焼の馬

    罅割れしマリアか氷りたる捨田

    汚染され剝がされる田やその痛み

    寒星の全電源の途絶える日



     2021年 5月   寒 流    高 野 ムツオ


    陰毛も炉火も手をもて覆うべし

    棒アイスキヤンデイであり凍土壁

    肋骨ばかりなれども初山河

    初日待つ永久に災禍の蘆として

    デブリまだ岩戸の奥や大旦

    蓬莱に乗りそこねたるデブリかな

    水洟を垂らした神でなくデブリ

    汚染水タンク千体屠蘇こぼす

    寒流が汚染の水を抱きに来る



     2021年 4月   防護服    高 野 ムツオ


    自販機を聖夜の燈とす双葉町

    冬の闇線量計のみ生きている

    原発敷地冬木の桜道ありき

    原発にコンビニありて水を売る

    冬帝の使者なり廃炉作業員

    冬青空包めり防護服脱げば

    凩や衣服の果てに防護服

    フクイチは遺体ではなし大冬日

    寒潮の原子炉死後の絶景に



     2021年 3月   霜 柱    高 野 ムツオ


    この世とはあふれ出るもの寒の水

    寒星が露頭に応えぞろぞろと

    寒星の音立て燻り沢庵嚙む

    寒晴の何処に消えし蒙古斑

    狼の護符より冬日無尽蔵

    狼の飢渇を忘れてはならぬ

    霜の声いや狼の声である

    桃の木の筋骨広げ霜に立つ

    浪江焼蕎麦歯に抗つて動くなり

    遺構にはならぬと霜の校舎あり

    冬木の桜並木白髪三千丈

    津軽乙女被曝の猪の糞を嗅ぐ

    とく見よと霜をも被り被曝牛

    被曝牛被曝の泥に踏張れる

    ぬるぬるでつやつや被曝牛の糞

    あきらかにあれは白息被曝牛

    全地球よりも棄牛の全体重

    霜柱牛にもとより墓場なし



     2021年 2月   塩 引    高 野 ムツオ












     2021年 5月   寒 流    高 野 ムツオ


    陰毛も炉火も手をもて覆うべし

    棒アイスキヤンデイであり凍土壁

    肋骨ばかりなれども初山河

    初日待つ永久に災禍の蘆として

    デブリまだ岩戸の奥や大旦

    蓬莱に乗りそこねたるデブリかな

    水洟を垂らした神でなくデブリ

    汚染水タンク千体屠蘇こぼす

    寒流が汚染の水を抱きに来る



     2021年 4月   防護服    高 野 ムツオ


    自販機を聖夜の燈とす双葉町

    冬の闇線量計のみ生きている

    原発敷地冬木の桜道ありき

    原発にコンビニありて水を売る

    冬帝の使者なり廃炉作業員

    冬青空包めり防護服脱げば

    凩や衣服の果てに防護服

    フクイチは遺体ではなし大冬日

    寒潮の原子炉死後の絶景に



     2021年 3月   霜 柱    高 野 ムツオ


    この世とはあふれ出るもの寒の水

    寒星が露頭に応えぞろぞろと

    寒星の音立て燻り沢庵嚙む

    寒晴の何処に消えし蒙古斑

    狼の護符より冬日無尽蔵

    狼の飢渇を忘れてはならぬ

    霜の声いや狼の声である

    桃の木の筋骨広げ霜に立つ

    浪江焼蕎麦歯に抗つて動くなり

    遺構にはならぬと霜の校舎あり

    冬木の桜並木白髪三千丈

    津軽乙女被曝の猪の糞を嗅ぐ

    とく見よと霜をも被り被曝牛

    被曝牛被曝の泥に踏張れる

    ぬるぬるでつやつや被曝牛の糞

    あきらかにあれは白息被曝牛

    全地球よりも棄牛の全体重

    霜柱牛にもとより墓場なし



     2021年 2月   塩 引    高 野 ムツオ












     2021年 5月   寒 流    高 野 ムツオ


    陰毛も炉火も手をもて覆うべし

    棒アイスキヤンデイであり凍土壁

    肋骨ばかりなれども初山河

    初日待つ永久に災禍の蘆として

    デブリまだ岩戸の奥や大旦

    蓬莱に乗りそこねたるデブリかな

    水洟を垂らした神でなくデブリ

    汚染水タンク千体屠蘇こぼす

    寒流が汚染の水を抱きに来る



     2021年 4月   防護服    高 野 ムツオ


    自販機を聖夜の燈とす双葉町

    冬の闇線量計のみ生きている

    原発敷地冬木の桜道ありき

    原発にコンビニありて水を売る

    冬帝の使者なり廃炉作業員

    冬青空包めり防護服脱げば

    凩や衣服の果てに防護服

    フクイチは遺体ではなし大冬日

    寒潮の原子炉死後の絶景に



     2021年 3月   霜 柱    高 野 ムツオ


    この世とはあふれ出るもの寒の水

    寒星が露頭に応えぞろぞろと

    寒星の音立て燻り沢庵嚙む

    寒晴の何処に消えし蒙古斑

    狼の護符より冬日無尽蔵

    狼の飢渇を忘れてはならぬ

    霜の声いや狼の声である

    桃の木の筋骨広げ霜に立つ

    浪江焼蕎麦歯に抗つて動くなり

    遺構にはならぬと霜の校舎あり

    冬木の桜並木白髪三千丈

    津軽乙女被曝の猪の糞を嗅ぐ

    とく見よと霜をも被り被曝牛

    被曝牛被曝の泥に踏張れる

    ぬるぬるでつやつや被曝牛の糞

    あきらかにあれは白息被曝牛

    全地球よりも棄牛の全体重

    霜柱牛にもとより墓場なし



     2021年 2月   塩 引    高 野 ムツオ


    みちのくの真乙女蚯蚓落葉より

    竪穴へ女人三人霜日和

    環状列石から雪嶺へ一跨ぎ

    落葉渦夜は星渦聖塚

    雲一つなきと冬木が語り出す

    東西自由地下道われも落葉なり

    星雲がたしかに父の外套に

    枯蘆は行方不明者夕日に立つ

    白鳥は眠れる燠火去年今年

    大津波生れし方より初日影

    覆面を日常として初日受く

    渾身で氷る雑巾その淑気

    お降りや埋立てられし瓦礫にも

    お降りの雪積み辺土広がれる

    震災遺構校舎わけても米こぼす

    まだ胞衣に首を傾げ福寿草

    盃の底に鶴舞う俘虜の国

    今もなお俘囚ぞ燻りがつこ嚙む

    遂にまみえぬものに小熊座流星群

    塩引の皮最後まで歯に抗す

    白鳥の真裸の声雪の底

    白鳥の声に応えてまたも雪

    偸生の禿頭を越え大白鳥

    雪の降る街の逢瀬は夜見にもあり

    京を恋う千枚漬に雪が降る

    被曝せし赤子のごとし雪の山

    大震災十年後へと雪吹き込む

    落命また楽しからずや垂り雪

    通う血がありて凍れる銀杏の木

    水仙や地下のマグマも再稼働



     2021年 1月   寒 濤    高 野 ムツオ


    白鳥の声を枕に去年今年

    熱過ぎる震災十年後の雑煮

    黄泉なれば浮名もよけれ冬の月

    指差せば寒星怒り光増す

    寒を生くウイルス怖れ人怖れ

    縄文のままの大脳寒燈下

    千里も一里なりと寒濤立上がる

    廃線レール寒月光に曲り出す

    弾けたる輪ゴムの如し寒雀

    狼声の途絶えしのちの星の数

   
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