小 熊 座 句集 蟲の王
TOPへ戻る  INDEXへ戻る


 

句集『の王
平成15年
角川書店

 

角川書店
  
    

     蟲の王(抜粋) 高野ムツオ

     稗の穂の金色の音陸奥の国
        

     月光の固まりである石の斧 
    

     この冷えは魚のたましい十三夜

     永劫回帰なり綿虫にいざなわれ

     阿弖流為の髭より冬の蝗跳ぶ

     鮃の王鮃の仏陀雪の夜

     兇暴性溺愛の声夜の白鳥    

     一億年ぼっちの孤独春の雨


     ぼうふらに呼びとめられし以後余白

     更衣して坐りたる炎かな

     金蠅が来て夕焼の話する

     北の先にまた北はあり雁来紅

     北極性憂鬱症エンマコオロギ  

     海底を行く列車あり枇杷の花
 
 
     われは粗製濫造世代冬ひばり


     象の背の上の現世や寒の雨 
 
     百科事典の中の神々桃の花


     空気にも絶壁がありなめくじり

     鳴く順に秋の蛙は土となれ

     穢土もまた還る土なり秋蛍

     七ツ森一つが間引され夜長

     金鶏山身震いしたる夜寒かな

     凍る木の薄紅がわが寄る辺

     練絹の蝮のまぶた寒月光

     うるわしの目脂鼻水雪濁り

     糸屑の脳につまりし残暑かな

     いくたびも虹を吐いては山眠る

     われ銀河生みたるなりと大海鼠

     春宵来客おしなべて鮒の精

     舌に氷片積乱雲の味がする

     うしろより来て秋風が乗れと云う

     ジョン・レノン忌の喉元を刺す朝日

     この音は魚群移動や雪の夜

     雪解光のみの世界や豚眠る

     みちのくの闇ぞろぞろと金目鯛

     肉厚にして可憐なり冬の蠅

     枯蘆の光となるは消えぬため

  あとがき

 
 本集は『雲雀の血』に続く私の第四句集で、平成八年秋から平成十三年までの五年半の作品のうちから三二九句を収めた。この時期に塩竃にこだわって作った俳句が他に100句ほどあるが、それは別に一集とするつもりでいる。
 平成十四年一月十九日に、この句集をいちばんに読んで欲 った師の佐藤鬼房を失った。悲しみは尽きないが、今頃は天上でこの程度の句ではまだまだと苦笑いしていることだろう。
 わが俳句もいよいよ正念場に差しかかったようだ。切れば血が噴き出る俳句を目指し、今後とも進んでいきたい。最後に、熱意をもって句集上梓を奨めてくれた中西千明氏に感謝申し上げたい。
 
            平成十四年  霜降

   



  
パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved