小 熊 座 2008/5 276号 特別作品 
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    惜  春    木 村 え つ


    春色の秘すれば蒼むアメジスト

    鳩水のゑくぼに囚われし

    吊り雛虚空へもろ手合せたる

    雛菓子を噛んで幼き音毀す

    枯葎遠くへ行かぬ風なりし



    干  潟    上 野 まさい

    親しけれ野望をもちて眠る山

    探眠る山とも金剛菩薩とも

    三界にぎんなん嫌ひ通したる

    咳一つうしろを黒き貨物船

    冬ふかくかうもり傘が佇つてゐる

  
 

      雪割草    大 森 知 子



     胸のこだまに雪割草が咲きました

     地下街に満作の風行き渡る

     ともだちの友の筆圧風光る

     鳴くかも知れぬ文鎮の亀四肢伸ばし

     孫兵衛の瀬波にもまた雛の音

 


     姥が懐    高 橋 昭 子

     凍解けの丘の日時計雲浮かぶ

     千年の欅の癌や春浅し

     蛇藤の幹たたけば軽き春の音

     不意をつく民話の里の春の鳶

     春泥の光をのせて一輪車




    秀衡椀    広 田 ヱ イ

    わが影の奥には卑弥呼氷面鏡

    春の陽は平等後期高齢者

    生き生きし誇り泰山木の花

    何もかも元のままなり椿落つ

    探梅や上州訛に道間わる





  
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