|
|
2009/6 №289 特別作品
グランドピアノ 大森 知子
余寒なお恋になるかも知れなくて
じゃんけんや又島影に白魚火
拝まれて神となる石鳥雲に
春のサーファー廃港を輝かす
ベネチアングラスに羽音春夕焼
鷹化して鳩の目覚時計かな
旅人にウグイスカグラ炎立つ
水筒の水をククッと木芽時
海蜷と桃源郷に来てしまう
音無しの小浜や雀蛤に
風紋のまわりもっとも明易し
木付山ふっと二十四の瞳
ある晴れた日の忘れ潮忘れいる
鶯を聞かせ俎供養かな
白魚や波の関守越え来たる
ラジオより「生ましめんかな」桃の花
韮を摘む嫗日和と言うべかり
遠き世の誰彼と会う遠雪嶺
花鳥や水平線が撓みそう
花影はグランドピアノでありにけり
色彩論 大場 鬼奴多
鶴帰る指のあひだをこぼれ落ち
土といふ恵みなりけり朧の木
花狂ひ二十年後の南蛮寺
ガラス瓶の腹のふくらみ霾ぐもり
初蝶が金と螺鈿の光芒に
遊糸楽竿無上ノ悦ビ土佐水木
春を眠りて黙示録的収支かな
葉も花も実も蔓も根も移るろへる
夕空に天使をつれて夏始まる
はんめうのそれつきりとて朱の仏
麦嵐人間なんかに構はずに
一枚の白布の上の鉄の靴
六月のウナ電閉ぢたままにする
天びこは大の字となり濡れてゐる
鬱勃として隠岐に小さき曾良の墓
青蚊帳の海深ければ深いほど
冒頭の歌は赤彦夜の衣
付け爪のせいで猛禽類のやうにゐる
月光のノートに書いておいた詩
大悲山に六つ葉茜を少し掘る
早春譜 菊地 恵輔
三寒のはざまは憂さの捨て所
佐保姫の降臨を待つ磯馴松
浮かれ猫四温の辻をまつしぐら
薄氷を姿見にして山の神
虫早く出でよ出でよとうさぎとび
梅咲くやおもむろに出す猫車
盆梅に風のおまけがついてくる
水温む首にぶらぶら遠眼鏡
末黒野をゆきつもどりつ仇の風
鶯にほだされ三色団子買ふ
春の鵜の群るる半坪なき礁
右に海左に大河牧開き
朝一の渚に拾ふ早春譜
霞たつ海の玄関アーチ橋
うるはしや弥生の海は母の背
お迎への梯子をおろすしやぼん玉
万遍に空を均して春の鳶
毛の穴を数へつかれし春の宵
洟かんできいんと春の身の谺
偉さうに光るゴム長靴青き踏む
津 軽 我妻 民雄
白魚や四角四面の網の底
蛇穴を出てまた戻る日なりけり
一湾を薄めあまたの雪解川
垣繕ふもんぺの姉か外ケ浜
雁風呂を焚けよと木つ端渡たさるる
海市いや鉞の刃が波の上
山霧(ガス)せまる竜飛は春の波尖り
浅黄より淡く落葉松芽吹きをり
蜆拉麺(しじみそば)に蜆三十十三湖
津軽はや降りみ降らずみ田を打てる
故郷は愛して憎め太宰の忌
かたかごの花も秘色をほどくかな
弘前の松よりも花騒ぎけり
緑青の櫓の廂花流る
武者落し真下の濠を花筏
水軍のごと水芭蕉帆をあげて
座禅草さす指のさき雪ふり来
三内丸山わらび野に波の音
たんぽぽの絮がとぶとぶ妣の国
春愁吐きたる板状土偶かな
クリオネ 伊藤 杜夫
冬耕の光の粒となりひとり
クリオネの天孫降臨流氷裡
サンピラー両手広げてゼウス佇つ
かまくらで微笑み返す麗子像
春の雪南部訛は柔かし
骨寺の遺跡燻ゆらし野火走る
師の嗤ひ人混みにあり帆手まつり
鱶鰭を干せば飛び交ふブーメラン
花筏ブラックバスが睨め上げる
囀に溺れて嗤ふホームレス
月浴びて腥腥を舞ふ滝桜
倒産の活字に包む花の笛
羚羊の凝視に惑ひ花粉症
不器男忌の真正面に青葉城
春眠のところどころで母の声
浦道を海星乾涸らび吹かれゆく
送りびと送られびとや閑古鳥
輪となつて手話の弾んで卒業す
桃剥けば我が血族の蒙古斑
雲の峰万才岬に陛下佇つ
|
パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
copyright(C) kogumaza All rights reserved
|
|