|
2010/3 №298 特別作品
冬の脱落 古山 のぼる
寒波型の弔辞となりぬ空碧い
溲瓶のいろかざしてをりぬ初朝日
極月のわが足音と喪のハガキ
人の世を覗き見てをる枯蟷螂
胃散飲む冬脱落のはじまりぬ
はらからの涙目壺焼芋を喰ぶ
冬の蝶極楽浄土と行き来して
夢の色は黒枯野には銀の舟
音読の子が眠くなる枯木星
冬の鵙平成維新とは云ふが
愚かにも寒満月の酒座に痴れ
寒の月蛇行の川は歴史もつ
くたびれし狐火で夜を誘惑し
のつぺらぼうの野に狐火の匂ひなど
寒卵割らねば鶏の卵なり
冬負けをしてアテルイの星出づる
クリスマスケーキ大人の嘘多し
寒の気を暖めるための一番星
冬景に焰渦巻く外竈
黒猫の巨体で甘え三ヶ日
観覧車 永野 シン
看取る日々離れ小春の遊園地
冬晴やまずペンギンのお出迎え
冬たんぽぽキリンの首が目に余る
駱駝には駱駝の悩み冬日和
ポインセチア二人の喧嘩有耶無耶に
象の鼻冬青空をからめ取り
縞馬の縞にも飽きて木のベンチ
裸木の陽のゆき渡る象の背ナ
咳をこらえて巡る爬虫館
食券は銀杏黄葉よオムライス
小春の日ときどきはじく河馬の耳
マロニエも冬木となりて陽を集め
木枯や人間くさき獏の貌
竜の玉餓鬼大将のままに老ゆ
白鳥の餌を撒く光捲くように
観覧車廻り小春の陽が廻る
人だます尻尾の欲しき十二月
冬の雨山の眠りをつつむかに
冬うらら象の微睡む足裏かな
たてがみのスパンコールや夕時雨
赤鉛筆 中鉢 陽子
木の実落つ終わり知らない数え唄
作業着の父が子を抱く七五三
玉砂利に鳩が遊べる小六月
どんぐりの混じる庭砂掃いている
泡立草貨車百輌を休ませて
青森へ夜行列車に咳をして
東京駅小春の街へ人を吐く
少女かと思えば少年青木の実
風花やポップコーンはカレー味
葉牡丹や行きと帰りの道ちがう
太陽は皆にやさしく花八手
日曜の銀杏黄葉の母校かな
冬うらら赤鉛筆を一束に
枯葉踏む時にはワルツ踊るかに
満足なひと日となりしかりん落つ
葱切って憎まれ口をきいている
寄り添って言葉少なき降誕祭
口笛や落葉だまりに日が溜る
この人とこの地で老いる枇杷の花
父と子の無言が続く蜜柑山
十二月八日 秋元 幸治
十二月八日遠富士引き締まり
冬銀河永久凍土溶ける音
色エンピツの先の青空冬の草
熱気球磨いたような初御空
非常口出でて枯野に紛れ込む
駅裏の裸木月を見ておりぬ
天上へ馬駆ける音うす氷
北国へ帰るトラック雲雀東風
野火放つ男の眼にも野火猛る
柿若葉夕陽に祖母の匂いあり
夏鶯足尾の山を平らにす
万緑に取り残されし製銅所
烏瓜の花夕闇をほどきけり
悪友の顔ひとづつ実梅とる
蛇の衣毒あるものは美しき
九十歳の喪主の禿頭涼しかり
廃村の共同墓地や鳥渡る
パーラーの日当りの椅子赤とんぼ
眼の合ってなおも平然鬼やんま
少年のソプラノに乗り草の絮
丸子船 阿部 菁女
鳰の声するあたりから明けてゆく
湖に向き重ね着の六地蔵
犬猫も贄人の裔枇杷の花
枯蔓を手繰る真赤な実を得んと
菊くくり蘇鉄をくくり十二
この奥に舟型御陵笹子鳴く
陵へ白山茶花の咲きのぼる
陵に夕日のしづくさねかづら
湖国の陽あつめて青し九条葱
船釘の四角いあたま冬の雷
つはぶきや「綿打チ直シ致シマス」
網干して小春日和の湖国かな
贄人の村や湖岸の掛大根
軒低き時雨の路地の鴨料理
時雨るるや道のをはりの四脚門
参道の蜜柑まぶしき湖の寺
湖の夕日押しゆく鴨の胸
オナモミは少彦名の神である
神迎へ水底を発つ丸子船
冬の虹消え逆光の丸子船
Sisyphus 宇井 十間
木の葉ちるたび水の輪のそらにある
何も無き空大鴉の影ひさし
麦を踏む背後に暗き雲みえて
夏潮や南国の恋なおさめず
火を焚くや遠い世界の音がする
水の都一つ二つと鳥の恋
泳ぎおえなお身のうちに夏の雲
精霊が地霊とあそぶみなみかぜ
シジフォスの神話 荒れ地に麦を踏む
蛇穴をでて人類のいない春
たがやしてその地のかぎりくらさかな
天の川地には神話と眠る村
散りながら世界を記述する紅葉
冬耕のどこまでいけど海みえず
野を焼くや飢餓というものありにけり
千年後の廃墟にしばし鳥の恋
蜥蜴のみみえ沈黙の地球かな
流星一つきえ沈黙の暗やみへ
わが墓しずか 世界の終わりくる正午
世界の謎みえず 落葉する正午
|