小 熊 座 2010/9  №304 当月佳作抄
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     2010/9  №304  当月佳作抄

                                   ムツオ推薦


   遺書ですと夕焼空をわたされし           佐々木とみ子

   やませ吹く軒三寸に闇を溜め            古山のぼる

   七夕や子なき声なき家ばかり            阿部宗一郎

   炎帝や鉄軌はつひに交はらず            大澤 保子

   新宿の何処から見ても月は月            高橋 彩子

   小鯵刺水につばさのある如く            佐藤きみこ

   かの兜太の一句を胸に原爆忌           小笠原弘子

   緞帳のあがるごとくに蟬の声             阿部 菁女

   消え方は虹に学ぼう羽抜鳥             山本  源

   端末に人は繋がれ茄子の花             増田 陽一

   濡れてゐるやうに乾きし蟬の殻           田中 麻衣

   その裏は黄金色なり梅雨菌             我妻 民雄

   あちらから見ればこちらが蜃気楼          さがあとり

   ようようと踏切渡る金魚かな             遅沢いづみ

   七月の光体として馬の耳               山田 桃晃

   をとことはキリンの首もて夏野ゆく          畠  淑子

   義眼義歯それに補聴器さわやかに         遠藤のぶ子

   言うならば千年噴水大欅               むらたつひこ

   蟬の羽化ほのくらき世へ羽ひろげ          竹中  華

   夏空に葉脈があり広がれり              澤邉 美穂

   立葵のぼりつめれば母の顔             永野 シン

   人さらいかもしれないぞ夏の霧            菅原 玲子

   新聞をスクラップして大暑かな            一組 一朗

   寝返りを打つたび繭になるやうな          伊澤二三子



  

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