小 熊 座 2011/3   №310 特別作品
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      2011/3   №310  特別作品


         荒ぶる神         我 妻 民 雄


    星となる熱き油の蕗のたう

    苺放てばもつとも水のきらきらす

    樹を降りた人の足うら春の土

    人間のつぎはくちなは創世記

    方丈にホルンのひびき蝸牛

    猫好きの紫陽花好きの忌を修す

    蜥蜴飼ひいたぶる少女らの真昼

    生ひ茂る砂漠の民の天国は

    地べたより余りて高き今年竹

    筆洗の烏賊墨一滴あきのかぜ

    さざ波と秋の蟬とは浸みるなり

    たまゆらの加算減算かねたたき

    永久運動もかくや鰯雲

      北に白鳥信仰国あれば
    白鳥は荒ぶる神と笑ひをり

    暮れたれば瀬に凝然と冬の鷺

    凍滝の落下のかたち聳えたる

    春待つて死ぬ人とはに春を待つ

    風花は鈴を転がすやうにかな

    おほぞらに唸り独楽ある桜かな

    大陸に鳩の頭を食ふ二月



          晩年の半歩       古 山 のぼる


    大寒や駄菓子まつりの赤い店

    片肺がもつともよろこび冬満月

    兵卒も一将も枯れ十二月

    十二月日本ひとつでありしころ

    闇濡らしゆけり狐の嫁入は

    海を母胎の寒落日の濃き匂ひ

    死語蠢く箪笥長持笹子鳴く

    極月や阿吽の妻をちからとし

    胎内で見し寒月の色とも違ひ

    日が詰まるから鮟鱇の吊るさるる

    晩年の半歩の乱れ霜柱

    雪空にこころ遊ばせ老の鬱

    海を見て手足の関節より凍る

    太古より枯色海の晩照は

    雑煮食べちからは目玉より溢れ

    雪のない正月童話は生れない

    屠蘇くんで眼精疲労の青年は

    寒星の綺羅に老醜捨てるとき

    色乗りし凍大根のかろさかな

    寒星が胸にとびこむまで歩く



          雪の章Ⅱ        阿 部 菁 女


    派出所の雪掻いてをる四日かな

    雪晴れや天の鎖のきらきらと

    暁の雲をとぢこめ崖つらら

    ポケットに分身の独楽登校す

    雪やみの村に小豆を煮る香り

    下校児へ除雪の腰を伸ばしけり

    雪垣をもるる童女の笑ひ声

    雪菜洗ふひと葉ひと葉をいたはりて

    鶏の脚くくつてありぬ根雪村

    凍み餅の色とりどりを吊りにけり

    凍み大根月日の痩せていくばかり

    雪靴が並んで乳児検診日

    雪折れの松が鋭き香を放つ

    豪雪の越中へ子を発たせけり

    肉叩き選ぶや雪の刃物市

    雪穴に栖む山彦も私も

    あつけなく転んでしまふ雪女

    牡丹雪母の歌声かもしれぬ

    みほとけの耳霜焼けてをはします

    晩鳥に寒の夜空と姥杉と



          日の雫         青 野 三重子


    紅梅のほろほろこぼす日の雫

    一瞬の風の形や柳の芽

    弥生土器いでしあたりを耕せる

    雲雀鳴く里山裾へ続く庭

    春やあけぼの最晩年の水を汲む

    春の夜の夢かも知れず山動く

    ふるさとの花のさかりに会ひし人

    万葉の岬に落ちて草を摘む

    望郷の重ねぎしたり晩春

    宵の花見て真夜の花を見る

    幻のしつぽ追ひかけ猫の恋

    星消えて光りは露にうつりけり

    漂ふは悲喜のこもごも花吹雪

    頂上に着きても木下闇の中

    太陽にぶつかつて落つ華厳滝(けごん)

    下り簗魚籠重しとも軽しとも

    仕上らぬままに吹かれし落し文

    勲章が母の箪笥に泣いてゐる

    遠ざくら日の丸たてて子等に逢ふ

    竹植えて吾のえらびし余生なり



          幼なじみ        福 原 栄 子


    同期生()
けて訛って冬旅籠(はたご)

    幼な日の顔貌面や雪静か

    水や茶を買う贅沢や開戦日

    すがもりの記憶の盥共有し

    風花や指しなやかに碁石打つ

    戦中と戦後を生きて冬桜

    手品にて伊豆の怒濤が波の華

    志功画の臀部談議や懐手

    緑黄色野菜嫌いの赤ヤッケ

    永久の愛とは笑止千万雪女

      激動の昭和が、ふた桁になった昭和十年、十一年生まれの私達には「ふたけた会」という同期会

     がある。昭和二十年に終戦を迎えたのだ
から、多感な小学生時代に戦中、戦後を経験した。また

     志田小、保柳小、米倉小の三校が新制
中学志田中となり、この同期会は盛大である。尋常小学

     校が国民学校に、そして新制中学校に
なった日々を共有した幼なじみとの話題は尽きない。私は

     教科書を墨で塗潰す時、後で読める
よう薄く塗ったら、拳骨をもらった話と、弁当の真中に、梅干し

     ならぬ、いかの塩辛を入れて持参し、ストーブの熱で教室中に異臭が立ち籠
めた話をした。本人

     が恥ずかしくて逃げ出す前
に、級友が逃げ出した程だった。人気者のKさんは手製の漬物やプレ

     ゼントを持参してくれ、替
え歌の披露には笑い転げる。Yさんは、いまだ現役で活躍中だが「北の旅

     人」は歌手並に上手
だ。遠く離れていても、誰もが古里の山や川を慕い集い合う。素朴な干柿など

     を喜んでくれる
幼なじみ、そろって喜寿を迎えられるよう健康を祈っている。

                                                          (栄子)


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