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2011/4 №311 特別作品
蜆蝶黄蝶 中 井 洋 子
信ずるに足る白菜の断面は
梟が鳴くと隠れてゐたくなる
きさらぎや甘えて紙にひろがる火
けさの雪たれかれに気を許すほど
煮凝や突然が早まつてゐる
春北風絵馬に埋もれし絵馬の数
草萌や手と手つなげば回る筈
寂しい坂よ水仙を売り歩く
初蝶の残してゆきし流線形
末黒野や恋する地球として自転
針山を醒ましに来たる蜆蝶
春泥のなかは静かなる戦
春蘭ひらく頬杖のときを経て
鳥獣を入れて流るる雪濁り
囀りを夢としてゐる砂袋
魂をはみ出して飛ぶ野の黄蝶
国境は陸から海へ桜どき
陽炎を抜けるに渦となるわが身
オートバイ静止の傾ぎ花万朶
海光の巣箱に果つる陸奥の国
耳飾り 永 野 シ ン
蔵王嶺の太陽まっ赤春愁
三月の空は気まぐれ風もまた
川底の不気味な暗さ葦の角
春の川わが胸中を写しけり
大試験牛はもつもつ餌を食む
鳥小屋の鶏見えず桜東風
春落葉腕にくい込む軍手跡
落椿生命線をかくしけり
地虫出づ脳は痩せゆくばかりなり
明王や春の生れる水の音
濃山吹堰の魚道の深きこと
歳時記に付箋びっしり春の雪
廃校となりたる母校揚雲雀
分校に箱橇積みて卒業す
春の夜の闇に冷たき耳飾り
屈託のないのが不安チューリップ
ジーパンの膝の穴より春の風
ポケットにうぐいすの声城下町
遠ざかる夜汽車の響き冴え返る
片腕の埴輪の微笑春の雨
雪解光 日 下 節 子
白山神社の拝殿の反り雪解光
見えていて祠の遠し春の泥
ぬかづけば余寒の寺の深閑と
石段の百段あたり初黄蝶
初蝶の影を追ひつつ祠まで
早春の木魂の音をチェーンソー
境内の木椅子の温み草萌ゆる
厩出し朝日の中をまつしぐら
浅春や弥陀の里より牛の声
だるま塚の出口入口笹子鳴く
薄氷と空を浮かべて手水鉢
春光や丈六阿弥陀如来像
参道の明るき日なり犬ふぐり
山と陽を分かち梅林花盛り
こけし橋のこけしの瞳風光る
こけし館は年中無休つばくらめ
蝶の昼足踏み轆轤錆びしまま
鋸と手斧の錆びや鳥雲に
山の端に雲二つ三つ壺菫
日溜りを王国としてすみれ草
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