小 熊 座 2011/5  №312 特別作品
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      2011/5  №312  特別作品


          括 弧          高 橋 森 衛


    借景の端末として遠雪嶺

    考えに幾重の地層雪の山

    阿弖流為の怒りのように春の地震

    野に街に襤褸着せたる地震の春

    春風が胸の括弧を外しけり

    寒鴉一歩ひだりへ二歩みぎへ

    不規則に弾みし言葉春の雪

    陽炎の中に広がる己が影

    天空の水を見に行く揚雲雀

    春の地震髑髏を運ぶ離岸流

    身の内に踏み切りの音春憂い

    言葉にも瘡蓋のあり風花す

    佐保姫は箒に乗ってやって来る

    小説の頁捲るや囀れり

    雑音は括弧の外へ花吹雪

    反戦の容に並ぶ落ち椿

    蝸牛天の思考を負うように

    男と女の黄金比率陽炎えり

    冬帽の似合いし漢の骨拾う

    加齢とは芯の透けたる軒氷柱


          砂時計         さ が あとり


    剝製の瞳孔のなか雪降れり

    大根の剝き花どれも真白かな

    書くものが無い寒紅は勿体無い

    冬眠の心拍数のたつた四

    啓蟄やおなかのチャック引き上げて

    よく見るとされかうべ柄春の服

    八相の嘆き方ありお涅槃図

    涅槃図のあとちつぽけな仏誕図

    砂時計工房水のヒヤシンス

    三月の蹉跌砂時計の砂鉄

    一握の砂落つ時計啄木忌

    がんばれと簡単に言ふ潮まねき

    八割ははつたりあとは朧かな

    落し角しかばねのごとありにけり

    人類はごみ持ち帰れ落し角

    ふみ焼いて文箱からつぽ鳥曇

    つばめの巣配膳さつきどの子まで

    わたくしに紫雲なくとも花ミモザ

    春星へ母の手摺を殖やしけり

    蜃気楼みどりの非常口はどこ



          時 計         遅 沢 いづみ


    てのひらのざらざらしてるひなまつり

    音もなく父のブランコ揺れにけり

    なんとなく聞いてゐる野球放送

    母親は台所相撲中継

    家計簿にとある旅館の箸袋

    杉並木松林梅桃の家

    工場の今昔陽炎の線路

    一灯の記憶は消えぬ黄水仙

    四月来るわが目頭に鳥の名残

    ヒヤシンス日のあるうちは本読める

    島の猫ひねもすそろり石巻

    花便り昭和のヒーローの健在

    午後三時プリンに花びらの震へ

    人思ふ故に人の字しやぼん玉

    買ひ出しの背後に残る歩道橋

    うららかに歌ひ継がれるお時計さん

    針に糸通すやうにラヂオ体操

    原発は遠い夏だと思つてた

    赤づきんちやんの昼寝を守らねば

    東北へ新幹線は我が緑


    

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