小 熊 座 2011/7  №314 特別作品
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      2011/7  №314  特別作品



         行く春          阿 部 流 水


  津波禍の瓦礫が残る花菜畑

  蕗味噌を舐めて震災下の夕餉

  春の鳶震災の地を高く舞う

  震災の瓦礫の山へ桜散る

  震災に泣いて支援に泣く弥生

  陽炎や幼馴染が震災死

  千体の遺体が並ぶ百千鳥

  みちのくに万の遺影や春爛漫

  春眠の春の続きは棺の中

  五月晴空に温顔置いてみる

  花筏あいつは今も漂える

  東風吹けば想う福島浜通り

  福島の陸と海とへ飛花落花

  行く春や呆ける暇なき震災

  震災の土筆は土手の子大地の子

  震災後はやも二か月鳥雲に

  一本の松遺りけり若葉風

  胸張って再生誓う羽抜鳥

  機関車の時代が見える花吹雪

  チューリップ今日から小学一年生


         ひつじ草         山野井 朝 香 


  無口にて満ちる泰山木の花

  まんさくの闇につながる思考力

  告白は石の丸さや花曇

  花虻のそのしんがりが君の位置

  柿の花ひとごとにせしほめ言葉

  八十八夜己にひびく小鳥籠

  晩年の橋揺らしおり榛の花

  天辺のためらっている夜の新樹

  家族史にあるリラ冷えの港町

  すかんぽを噛めばまっすぐ父の来る

  曇天の私名義のひつじ草

  針山のさっと混み合う暮の春

  ブルーサルビア追伸に夜の地震

  ゆびきりの形の日暮れ花ミモザ

  茉莉花茶その後寡黙が殺到す

  壁紙の粗きに触れし薄暑光

  花の夜の空気に地震の予感して

  晩年を見届けている花槐

  背景に辿り着きたる揚羽蝶

  黙契というならば花石榴かな


        芍 薬         畠   淑 子


  箸置きのさくら花房誕生会

  五月晴れ東北東のメルトダウン

  春日傘猫の欠伸の出迎える

  窓を拭くゴンドラの綱風光る

  地の憤怒撫でてさましぬたんぽぽよ

  着火まえの芍薬わが児の未来図

  芍薬の自縛ひと夜にとき放つ

  走り梅雨スカイツリーは薄霞む

  余震多し苦瓜の苗売り切れる

  太陽疹がでる夏蝶低くとべ

  われ宇宙人地底の蟬の声すなり

  芍薬の崩る頸椎劣化する

  葱坊主猫背の猫の通りすぐ

  新樹光無精卵抱く朱鷺の黙

  山椒魚きみはいらない三面鏡

  空蟬のからからからと漢方薬

  鍼灸師五月の隙間鍼を打つ

  たてがみの痕もやもやと夏の風邪

  夏のうたくろがねの歌旭日旗

  チューリップ崩れ忘却といふ不安


         花 筵         清 水 智 子


  蝶々の飛びゆくところ未来都市

  菜の花が夕日を広ぐ我が齢

  春眠の底のあたりの回遊魚

  いちまいの春野少女等羽づくろい

  青空の奥へ帆となる山桜

  春雨に十指をひろげ母の忌なり

  倒立の子に春空の下りて来る

  空気にも弾力のあり野の黄蝶

  最果ての鯨も見しか春の月

  麦秋や体の蝶番いくつ

  母逝きて葉桜の闇たしかなり

  少女期の目眩と思う花うつぎ

  弟の声す春日の魚道より

  風花の玻璃にとけ行く梅一つ

  そうだったのかと父居る花筵

  花冷えの東京駅の二十二時

  さみしさが背後に回るさくら時

  はらからの遠くて元気蓬つむ

  桜の木つながり咲いてさみしかり

  亡き父を呼ぶ対岸の花明り

          

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