2011/12 №319 特別作品
座 標 須 﨑 敏 之
自ら享く火を恨とせり豊の秋
もやいつつ十三夜靄浮かしむ
穀象や大河を渡り終えしごと
兄は翁秋の山襞克明に
鯊湧くや低庇押し合えるのみ
蟷螂の産みつけにくる蟄居かな
息継ぎの土竜の髭を思うのみ
宙吹きの二、三歩凍鶴に寄りぬ
ラ・フランス憤怒の貌の瞭らかな
漂うなり根室の霧笛舎のノブと
虹の根は切子職場に密やかに
藁塚の群雄割拠霧深し
シャッター街木犀週間の荒ぶ秒音
湿り香の栗毬燃しは兄ののろし
錦秋や獅子為す火山蟬の塁
むらさきがちたる秋の山河と線量と
豆ボッチ組む小憩の稲敷郡
稲に何のひかり森に何の闇
野大仏脚下遍照蒸し甘藷
忘却と時間の座標秋の蝶
洞爺ひと夏 鯉 沼 桂 子
火口湖にこの世の影を夏の雲
村ひとつ湖へ傾く花さびた
沸点の胸碧まで夏の湖
立てなほすものに己が身反魂草
百代の噴石苔の花に雨
蟬死んで空つつぬけのがらんどう
またの世の己が影かも夏の霧
アイヌ彫刻家砂澤ビッキ
青北風のかたちビッキの鉈目彫り
西日さすところビッキの鉈・鉋
ゆく夏をなほ北へ向く貨車の音
霧匂ふオロフレ峠に佇てばなほ
その上に熔岩山置きて夕花野
茱萸おちて人には人の涙の数
遠き眼をして青北風にのりたがる
噴石の嵩なすところ黍嵐
足湯して過ぎしことなど蛍草
コスモスの原に噴石冷ゆるのみ
昭和新山ずどんと座る黍畑
拳ほどの昭和新山秋夕焼
夕暮れて海霧はアイヌの峠越ゆ
小岩井農場 伊 藤 晴 子
高速道手を振るやうに銀芒
刈田中煙たなびく紫波平野
南部富士裾野に広ごる蕎麦の花
牧柵に沿ふやうにとぶ秋の蝶
木曜日の人影まばら秋牧場
小岩井のアイスと空気旨かりし
秋夕日馬上の少女はじらいぬ
それぞれに秋の陽背ナに羊群
放牧の牛が動けば霧動く
近づけば牛の大きさ鰯雲
干草積むトラックの列とすれ違ふ
林檎買ふ茸も買ひて無人売場
紅葉の御所湖ますます群青に
雁渡し御所湖のさざ波きらきらと
かりがねや早めに温泉灯の入り
天高し南部片富士仰ぐとき
小岩井の木の実を家に持ち帰る
足元より暮るる早さの花野かな
一日を切に生きたし秋夕焼
小岩井のゲート出る時秋の虹
釣船草 蘇 武 啓 子
この町の歴史を知らず蒲の絮
釣船草夢を捨てずに生きている
鬼やんま青き沼より現われる
おんな皆鬼女になるらし鵙の声
先生も来よ木楢の実落ちる夜は
曼珠沙華摑めぬ夢のかたちして
万華鏡回して秋の錦呼ぶ
母校の名変りて長し秋桜
喪の家の片隅に咲く野紺菊
小走りでわれを迎える木楢の実
すすき原行きのバス出る鬼切部
涙もろき男なりけり零余子飯
赤子はや次男のかまえ胡桃の実
かけっこのゴールは先生花カンナ
子の夢は仮面ライダー豊の秋
瑠璃色の地球を蹴ってバッタ飛ぶ
湯の川となりし村あり水引草
鉛筆画路上に買う日燕去る
歳時記をめくる間に雁渡る
秋うらら薩摩切子の赤と青
前 後 遅 沢 いづみ
年月は石を転がし彼岸花
犬はもう靴を銜へずねこぢやらし
行楽の秋鈴の鳴る埋立地
海沿ひの木造駅舎鉦叩
小鳥来るレジャーランドにキリン来る
菊花展温泉もある思川
負菊に負けたかと言ふおぢいさん
二千羽とつぶやく男蘆の原
二十キロ圏内に象秋の雨
教室の本棚釣瓶落しかな
稲刈の匂ひを纏ふ家族の輪
穭田に合唱部員打ち合はせ
秋深き十円玉の裏表
橋渡る特急列車秋遍路
喫茶店ジローのケーキ秋の暮
この道の前も後ろも秋の暮
野鳥見るかい末枯の河川敷
フラメンコギターの音色石蕗の花
弟の絶壁に当る冬の陽
あこがれや叔母の編物見本帖
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