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2012/1 №320 特別作品
柿の空 上野まさい
柿の空縄文人は今も眠り
銀杏の木寂しからうと叩くなり
栗を剝く神の頭蓋をほぐすやうに
蹼のあたりが軋む黄落期
墓持たぬ一族椿の実が一つ
要領の悪き蟷螂から枯れて
木枯や鴉の舌が赤きゆゑ
凩とおなじ匂ひの地球かな
戦争の記憶いきなり冬帽子
西空に棲んでみやうと雪女
見たことのなき狐火の話かな
百歳になりても信ず狐火よ
狐火は神の血肉と母は言ふ
短日や肩胛骨がついて来る
軍国であること枇杷の咲くたびに
冬ぬくし海賊船を見たやうな
てのひらに火の気飛びつく寒九かな
冬銀河神よ母よと近寄りぬ
天地は餅の如しや晩年期
あめつちは跼まつてをり冬霞
古本屋 秋元幸治
せせらぎの音に生れたる犬ふぐり
電線のかすかなたるみ薄氷
囀りの膨らんでくる真っ昼間
さくらさくら恋ではないがまたさくら
守るものまたひとつ減り草の餅
地下街を出て春風の古本屋
望郷の詩を辿れば梨の花
待つことをやめ夕空に水を打つ
ゴミ袋引き摺る鴉朝曇
生き方に途中下車なし桐の花
自転車が好きな老人花木槿
亡き友の大笑聞こゆ芒原
人が来てコスモスを見て空を見る
寂しさの隙間コスモス咲きにけり
何ごとも方向音痴草の絮
沈黙の和解もありし冬夕焼
付き合いが悪くなったと海鼠食う
裸木は徒手空拳で空へ向く
根拠なき自信のありて麦は芽に
束の間の棺の窓に風花す
桃の実 菅 邦子
ふくしまの桃いとほしく眺めゐる
桃の実に指先触るる痛みかな
豊作の雲の継ぎ目の放射能
踊子草神も流され給ふかな
探すとは失ふことなり月に雲
地震のあとの海へ海へと白まんじゅしゃげ
息吸ってどこまでも翔べ虹の折鶴
原発放棄夏の墓石の倒れ合ふ
老鶯の夜を剝がせし疲れかな
ねこじやらしひもじく過ぎし地震の後
測りゐるセシウム流れる蟬時雨
混み合ひて葬ゆき土手の曼珠沙華
今年早や全山紅葉の寂寥
深海で牧師になった羽抜鶏
雁渡る万の祷りを羽に乗せ
抱いて来し芒を渡す通学路
蝸虫死の影捉へ紛れゆく
亡き人を偲ぶ花展となりにけり
生傷や赤ピーマンに肉詰めて
木の実落つ吾れをうづむる睡欲し
青 虫 冨所大輔
剝ぐ膏薬は去年の身の鉋屑
寒の月夜は人間乾かしむ
天界の遊びの仲間春の雪
電飾のとれて快なり木の芽晴
花殻は早く摘むべし梅雨に入る
さびしくないか泰山木の花に雨
俺にかまわず青大将の跳ぶ構え
からからの地球を掻いて草をとる
長生きもいくさのひとつ秋に入る
突然の黒雨の跡の川蜻蛉
比良坂と異なる坂を越す極暑
青虫に毒を食わせる二心
死骸焼く扉の前の残暑かな
魚の目の魔物がぬける後の月
大方の夢は嘘吐き霧晴れる
水澄みて朱鷺ら羽撃く未知の天
曼珠沙華天上界に誰が待つ
秋晴やいのちあるうち鎌を研ぐ
今日よりは明日が明るい豆名月
薄は非情朱鷺を見知らぬ世に放つ
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パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
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