小 熊 座 2012/2   №321 特別作品
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      2012/2   №321  特別作品


         津  浪         古 山 のぼる

    敗れ蓮鴉の知恵を借りたくて

    冬の雁阿鼻叫喚は海底で

    姨捨山の原発となる枯蟷螂

    雪蛍海は涙を見せるとこ

    汐の香に悲しみの湧く照紅葉

    六感を研ぐ枯野の日借りきつて

    原発や冬三日月は諸刃の剣

    咳込んで老いの体臭皆月蝕

    セシウムの汚染地域や冬蒲公英

    風花や津浪のいのちてんでんこ

    修羅の世を生き雪吊の遊び縄

    裏おもてなき夫婦なり冬至の湯

    濃き茶にて五官を騙し寒に入る

    露天風呂はひとりの空間冬銀河

    ふくしまは近し雀の着ぶくれて

    大寒といふミキサーにわが手足

    晩年の肩の尖りに御講凪

    首根つこ掴まれてをり寒夕焼

    竜天に登る勿来川はわが産湯

    三月の嗚咽は盆の窪に溜め



          月  蝕         千 田 稲 人


    暗涙を心に溜めて曼珠沙華

    曼珠沙華罪なきものはここへ寄れ

    月蝕を終えて恍惚冬の月

    大枯野飛んで消えゆくわが記憶

    風花や昔軍馬の通える橋

    霜柱蹴れば鋭き音たてる

    這いて行く我に吹き付け野分風

    黄落の一樹一樹に風の唄

    津波来し野蒜に咲くか冬桜

    廃港に置きざりにされ捕鯨船

    蘆枯れて学童の亡き小学校

    荒浜の波の重さよ冬の虹

    冬菫打ちのめさるな踏まるるな

    雪帽子心の闇は包めない

    枯れ銀杏その真ん中はがらんどう

    振り向けば魔も振り返る神無月

    大根の白美しや風の中

    魔の年の銀杏すべて散り果てよ

    リアス式海岸を抜け北っ風

    海底のピアノ奏でよ北っ風



          暖め鳥         大 澤 保 子


    日の暮れの車道に銀の桐一葉

    戦没者遺品館より秋夕焼

    水輪消え水輪をふやす翁の忌

    息白く忌火の灰をならしをり

    暖め鳥水堀石の水もらふ

    狛犬の吽に落葉の降り止まず

    初霜に草木之碑のかがやける

    あぢさゐの真青なるまま神の留守

    冬の雲水子霊舎に竹の筒

    魚板打ち十一月のこゑを聞く

    神鶏も神馬も見えずもみづれる

    顕彰碑冬青草をちりばめる

    龍吐水滴々銀杏降りつづく

    掃く音のさざ波なせる神の旅

    落葉焚くけむり了咲碑を濡らす

    焼干をはりはり食めば陸奥寒暮

    神の旅碍子となりし夕鴉

    山畑のなぞへに葱の屹立す

    石道に影も反り身の枯蟷螂

    山薊天変地異を咲きつづく


          街まち         遅 沢 いづみ


    行く年やお堂の脇に拡声器

    観光の街の寒暮の丸ポスト

    三猿のほかに数猿十二月

    くしゃみして鼻をかむ音貴賓室

    思ひつく歌口づさむ冬薊

    煙突や世界遺産のごとく冬

    冬の橋アコーディオンの蛇腹伸ぶ

    三叉路の山茶花母は八十五

    街角の神社ほろほろ花八ツ手

    年の市祖父孝行の男子かな

    歩行者に心おきなく寒椿

    クリスマスソング屋上遊園地

    大晦日坂上二郎ですへへへ

    タツ年の千手観音初詣

    冬休みなかば松島マリンピア

    正月の映画鑑賞郡山

    二重跳び自慢の仲間冬うらら

    マフラーの色々に甦る街

    街のどこかに美大芸大受験生

    時計屋に店員ひとり春隣




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