小 熊 座 2012/7  №326 特別作品
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      2012/7  №326  特別作品


         花と塔         越 髙 飛驒男


    春の死や眼で追う高さスカイツリー

    尖塔よ墨堤に花追う日なり

    スカイツリー銀鱗の飢え花の飢え

    花光る銀鱗の塔あるかぎり

    塔塔塔花花花よ隅田川

    スカイツリー何処にも立つ花の雲

    此岸より彼岸の桜真面目なり

    春鷗高波に戯れ花に戯れ

    畏怖の尖塔ひしひしと花ひらき

    今日一日枝垂れさくらに手が伸びる

    花うきうきスカイツリーと余命得て

    花となり塔となり川光りたり

    花となり塔となり人騒ぐなり

    スカイツリーへ幾千万の花筏

    荒魂の木枯が居る花莚

    蒼ざめて畏怖の塔あり花の酔い

    桜冷え畏怖の尖塔光りけり

    尖塔を行く花冷の首一つ

    花と塔倦みたる人の叫びなり

    スカイツリー冷ゆ花冷の花よりも



         桜の国         土 見 敬志郞


    網膜を行きもどりせる春の雁

    墓山に朧の月の上がりけり

    花の闇億光年の声がする

    億万の落花の影の万朶かな

    柩いま囀りをもて閉ずるなり  悼句

    さへづりの杖に残りし別れかな

    喪心を静かに花の闇にゐる

    眦に流砂となれり落花かな

    眦にさへづり重ね母の国

    花鳥の静かに日暮れ傾きぬ

    雁がねの声溜まりゐる潮溜り

    朧夜の潮騒重ね壷の耳

    鍵捨てて桜の国に放浪す

    廃校やブランコに空あるばかり

    切株に微熱のありて鳥帰る

    陽炎が人を生みたる涅槃門

    風薫るしづかに杖の人通る

    花みもざ瞼に深き潮曇り

    平和とはこの踏青のある限り

    地震あとの白梅の闇強靱に



         夏 始         田 中 麻 衣


    人の世の流れ花水木の通り

    パプリカの赤や黄色や夏始

    蕗の香に満たされてゐる流し台

    短夜や耳掻きに鈴ついてをり

    白き壁白き新車や初燕

    全景に棚田のありて朴の花

    夏帽子風が時々手を出せる

    牡丹と過ごすいちにち白湯甘し

    薔薇の館開かずの窓となつてゐる

    貝塚の断層のある薄暑かな

    二丁目のなんぢやもんぢやの花が咲き

    何となく良い事のあり豆御飯

    三行詩立掛けてある緑の夜

    新緑の溢れてをりし火灯窓

    さざなみに鳰の子浮かれゐるらしき

    くちなはの渡る光りの帯となり

    心太カナリア諸島は何処にある

    なめくぢり「家の光」のあつた筈

    竹煮草裏返る時光りたる

    ほととぎす子規の右顔知らざりし



         朧 夜         清 水 智 子


    春の夜や素焼の壺のごと居りぬ

    羽ばたきの一つ大きく芽吹山

    我が身叱るいっとき春の夕焼かな

    吊革の揺るるもさくらさくらかな

    麦秋のまん中征きしままの父

    耳鳴りの耳を出て行く花の虻

    青空に扉がありて飛花落花

    骨盤にかすかな軋み日脚伸ぶ

    鳩尾に緑風を入れ人に逢う

    放浪は難し春風が追い越せり

    少年合唱団たちまち春の雲

    海遠く山遠く居て春の月

    喪帰りに母の匂いの花八っ手

    朧夜を選びしごとく母逝けり

    綿鯉己がそびらの色知らず

    逃げ水を追うて人声消えし町

    たんぽぽや田の神を呼ぶ石一つ

    生き様はじぐざぐなれと葱の花

    夏蝶の自在とあらば息の合う

    ふみきりを渡るここより五月闇



         時は流れる       野 田 青玲子


    梅の枝包む新聞紙に「死刑」

    内裏雛階を見下ろす位に即けり

    洲の街の廃墟に春のかもめどり

    雛飾る生まれし家も死ぬ家も

    煙突は湯屋と火葬場八月忌

    梅雨兆す吸取紙の逆文字

    霊柩の寝心地からすうりの花

    梅雨蒸しの歯型採らるる口の穴

    炎昼の町を罅割る場末川

    向日葵の躁の花瓣と鬱の蕊

    三叉路の六地蔵より蜥蜴馳す

    「考える人」は便座に梅雨豪雨

    竹皮をぞろりと脱ぎし比丘尼寺

    雁仰ぐ眼鏡の重さ鼻に来る

    裏山に虫鳴く津波禍の校舎

    月夜茸銀河鉄道空を駆け

    色鳥が仏の磴をわつと過ぐ

    凍滝を研ぐ月光の青き炎よ

    どうせ死ぬなら鶯色の雪の暮

    鬼房の海嶺を恋ふ初出船



 
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