小 熊 座 2013/2   bR33 小熊座の好句
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     2013/2   bR33 小熊座の好句  高野ムツオ


   橙に大和の闇のみっしりと       上野まさい

  「大和」という地名から呼び出されてくる世界は数限りなくある。三輪山などなだらか

 な山並み、あるいは、奈良の
古寺や堂塔を思い浮かべる人もいるだろう。そうした歴

 史
懐古のイメージによって、この句を鑑賞するのもいい。しかし、「橙」を上五に据え

 「大和の闇」と打ち出される
と、その闇の彼方に見えてくるのは、古代の大和政権で

 あ
ろう。規模の大きな古墳は、すでに三世紀後半には、この地方に出現していたそう

 だし、五世紀あたりからは、さま
ざまな名の大王が登場し、東日本はすでに勢力圏下

 にあっ
たという。あまつさえ大陸にまで出兵している。おそらく、血で血を洗う戦は、身

 内の権力争いから侵略まで絶え
ることはなかっただろう。そうした軍事権力としての

 大和
と欲望の闇が句の向こう側に見えてくるのだ。付け加えれば、「橙」は、いうまで

 もなく「代々」と同義。争うこと
が人間の本性であるのは何も「大和」に限ったことでは

 な
いのだけれども。

   年暮るるいつも昨日の神田川     平松彌榮子

  この句も地名、ここでは川の名前がもたらすイメージが、句の世界の基盤をなして

 いる。神田川は元は平川といった
そうだが、江戸の上水確保のため家康が改修を命

 じ、二代
秀忠の頃に神田川と呼ばれるようになった。家綱の時代に、芭蕉もこの川

 の改修に携わっていたのは周知の通り。神田
川は、都会化が進み一時は死の川の

 趣も呈したが、鮎など
魚類が棲めるようになり、江戸川橋から上流に向かって桜

 植えられ、花見の名所ともなった。「よしきり橋」や
「ゆうやけ橋」など微笑ましい名前

 の橋が架けられている
ところもある。だから、東京に住む人にとっては、さまざまな思

 いを育んでくれた川だろう。とはいうものの、やは
り、「神田川」のイメージを決定的に

 したのは、南こうせ
つ等の歌「神田川」である。曲もさることながら、歌詞となった言葉

 の力が大きい。この句の「昨日」がどんな「昨
日」であるか。それは鑑賞者にゆだねら

 れている。しか
し、眼前の神田川が、いつも昨日の神田川であるという発想には、そ

 こに、いつでも昨日のように蘇る青春の映像が
あるのは否定できないことだろう。

   出羽根雪歌祭文の小屋が開く     阿部宗一郎

  この句も「出羽」が句のイメージを決定づける。渡りの瞽女でも、どさ回りの門付け

 でもいいだろう。歌祭文に導
かれるように、小屋が開いて、根雪に囲まれた雪国の長

 い
冬が始まるのである。

   寒林へ耳から先に入りけり        高橋 彩子

  「耳」の選択が確か。野生の感覚である。

   鉄塔は冬木となってみたかった     千倉 由穂

   みみずくの瞳黒インクの純度       山本美星子

  大胆な断定と物の力。どちらも鮮度十分だ。





  
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