小 熊 座 2013/2   №333 特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る


   







  
                            
      2013/2   №333  特別作品


        何処へ         阿 部 菁 女


    軋みつつ枯野の朝日昇りくる

    福島の空を支へて枯欅

    憑きものの落ちたるやうに山眠る

    折れ大根うち捨てありぬ畑仕舞

    括りたる残菊の色いよよ濃し

    風花や天に篩のあるやうに

    あけくれを瀬音に添ひて干菜村

    冬晴れの瀬頭をとぶ川鴉

    宝暦とかすかに読めて凍る墓

    自転車の子が夕凍みの橋をゆく

    起き上り小法師のやうに着ぶくれて

    雪囲より赤んぼの声がする

    つるうめもどき影さへ朱く活けてある

    らつきようを噛む枯山を前にして

    塗り椀のわづかな曇り雪催

    落人の宿熊鍋が湯気立つる

    熊鍋や支離滅裂となつてきし

    熊鍋に燧ヶ岳を招ぶとせん

    蕎麦包丁懐炉を腰に研ぎ始む

    枯山の奥へ日の差す村ざかひ



        途 中         上 野 まさい


    飛ぶことにする十月は夕暮は

    通草一個に頭あつめて老人会

    鉄橋の上に顔置き鳥渡る

    学童とあそぶ綿虫見てゐたり

    冬帽子だんだん闇につつまれる

    うはごとのように梟鳴く故郷

    凩も山も棲むゆゑ帰らむか

    空を見る人間を見る冬の蠅

    鼻一つありて柊日和かな

    冬籠るゴリラのやうに動きては

    西の風ひとかたまりに針供養

    人の死ぬ一瞬長し芹なづな

    山河から血を貰ひたる霜柱

    水温む大地生涯日本人

    柩から出て風花の街歩く

    風光る水平線まで十歩ほど

    なつかしき空腹感や春の海

    麗かな日も老人になる途中

    奇怪なる闇のかたちや御水取

    薄氷はうすらひの音立て割れる



        雪 女         髙 橋 彩 子


    猫の眼にたじろいでいる冬薔薇

    さよならをぶつけた頃の黒コート

    鳩尾に煮凝のごと二十歳の恋

    覚醒の林檎は蜜を溢れさせ

    冬の蜂手枷足枷緩みけり

    啄木鳥が左脳を叩くように冬

    雪うさぎ涙になってしまうはず

    狐火や証拠隠滅とはならぬ

    十人のシュプレヒコール十二月

    綻びを繕うように枯木山

    白菜も葱も純白という淫ら

    眼帯をして極月の橋渡る

    投げやりに第九歌いて冬ざるる

    葉牡丹の蕊は女々しき夕間暮

    駅裏の電話ボックスより凍蝶

    落籍されて人になるかと雪女

    心臓は無色透明雪女

    雪女水より淡き匂いあり

    雪女スカイツリーの真上より

    次の世はなにがなんでも雪女



        去年今年        俘   夷 蘭


    去年今年縮む日本のそのかたち

    茅葺きの家を訪ねし雪の道

    雪女さらう子供を探しけり

    雁鳴くや摩天楼住む老夫婦

    強風や雁の抗して低空飛行

    白鳥は灰色の子を守り歩く

    大川小の校舎みつめる冬帽子

    牛孕む放射能効十万年

    大津波語るは雪のタクシー車

    冬の月仮設住宅から歌集

    似顔絵でみつけて遺骨年の暮

    湯豆腐やまだ消えぬ壁波のしみ

    「新しき漁船まだ来ぬ」年賀状

    集団移転さまざまな影冬鷗

    よみがえれよみがえる漁港よみがえれば

    大雪の水にまつわる暮しかな

    鷹の影アジア不穏の日本海

    核ミサイル氷河期いずれ来るものを

    大熊座の古代の星図冬銀河

    冬銀河すべて過去からこれも核



        冬 耕         蘇 武 啓 子


    銀杏黄葉子のちぎり絵に迷い込む

    檀の実背ナより赤子顔を出す

    子育ては両手両足木の実落つ

    住職の長き説法首の冷え

    ルスデンに猫の鳴き声石蕗の花

    日溜りに猫の目六つ青木の実

    冬の日の軒に雀の弾み来る

    寒夕焼引きずって来る雑踏が

    赤蕪と一緒に届く回覧板

    着膨れの男風呂焚く村寂びて

    霜の夜の汽笛に父を聞いており

    酔えば出る父の戯歌牡丹鍋

    東京という郷愁や寒雀

    冬耕の鍬の先より日の暮れる

    付け睫毛付け黒子いて初座敷

    目を開けしままの人形雪の夜

    青春の翅はたたまず野水仙

    冬菜畑前に小さき美術館

    青空に水脈引くごとく雁の列

    帽子屋に「イマジン」を聞く春隣




パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved