小 熊 座 2013/3   №334 特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る


   







  
                            
      2013/3   №334  特別作品


        ゆるぎなし         中 井 洋 子


    風景となる寒卵割りて呑み

    雪もよひ紐がひもつこでありし頃

    凩は赤を探しに吹き来たる

    暖房のそれとなき音太宰読む

    やさしさの境目である白障子

    煮凝やもの云ふ父となり出でよ

    いち日の結び目であり冬菫

    ころあひとなり寒鯉の相寄れり

    寒星同士へだたりのゆるぎなし

    これからといふ時にあり寒の水

    銀河まで絵馬の一つが放浪す

    冴え返る夜の消ゴム減り急ぐ

    大晴れや浮寝する鴨乱す鴨

    水仙のひとつの向きの未来かな

    寒星の瞬きであり愛国心

    真夜中の言葉は獲物もがり笛

    一月二日のつぺりと過ぎてゆく

    立ち上がる正面暗し日向ぼこ

    子育ての立て膝三寒四温かな

    かさぶたのあやふくあそぶほたあかり



        鏡の部屋         森   黄 耿


    人類に脱皮は無きか初旦

    二拍手の指すり合はす寒さかな

    命脈にとどく日の影冬の瀧

    追羽根の父娘小嶋の小日向に

    熟睡の大白猫のめでたさよ

    ひそやかに合はす口笛初松籟

    相聞す紙形代と霜柱

    霜柱屹立黄泉へみちしるべ

    まぶた無き蛇の冬眠鏡の部屋

    深沈と被る毛布や砂漠のゆめ

    牛蒡洗ふ風の独語にうなづきつ

    紛失の鍵凍蝶となりしかな

    みづからの谺に吠える寒の犬

    古裂屋に帯の金銀小正月

    あさはかに初の霙のおもひけり

    ほんたうの雪見障子となりにけり

    海に雪天のなみだの降りしきり

    心魂にひびき雪庇の落下音

    ぽくぽくと松ぼくり生み斑小雪

    凍雪を見渡す月の笑窪かな



        雪 椿          武 田 香津子


    千年の椨の葉裏の雨蛙

    日が落ちて雀は無口花八手

    越冬の草蜉蝣や草の枝

    クリムトを思う銀杏の落葉踏み

    地震は海から唇に風花が

    雪椿死は平等にとこしなえ

    瓦斯灯の火の青白し雪女

    雪女鳥も獣も押し黙り

    雪蛍見失いたり月の昼

    掴みし日たしかに独活の花の枯れ

    青空はとめどなく有り独活の花

    夢に有り瑠璃虎の尾に吹く風は

    月氷る正倉院の瑠璃の坏

    窓を打つあかるい風に蜜柑剝く

    後ろから鈴の音して七五三

    雪蛍呼び合い互いを見失う

    白鳥や川は川辺の家映し

    アセチレンランプや辻に雪女

    独活の花の枯れ青空に限り無し

    フュッセンに騙し絵のあり風花す ( ドイツ・バイエルン州フュッセン)




パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved