小 熊 座 2013/8   №339 特別作品
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      2013/8   №339  特別作品


        蔵王その他       越 髙 飛驒男


    秘仏拝むうなぎのぼりに人の列

    天嶮に藤懸かりけり五大堂

    雪渓へ声限りなく蕗のとう

    雪渓へまた雪渓へ蕗のとう

    薄味の屋台団子や滝の音

    山藤や金城湯池伊達の湯に

       三月十九日
    夜さりの人八田木枯一周忌

       丸森
    逢
いたいな高野ムツオのたかんなと

         青野三重子さん逝く
    千
津三重子えにしの花となりにけり

    男なら泣け菖蒲湯に子と話す

    鯉のぼり垂れる介護とは何か

    憲法記念日つっけんどんな親爺いて

    鯉幟乳房聳えて来る気配

    土筆長けまたも憲法第九条

         亀田虎童子句集「合鍵」上梓
    亀鳴くや田螺も鳴いてしまいたり

    ムツオと濡れる北斎の夕立橋

    蹴飛ばし屋鬼房がいて木枯忌

    馬肉喰う夕立を来た誠一郎



        夏の月         俘   夷 蘭


    耕心の隅々にまで青田かな

    薔薇作り育児と同じと言う夫婦

    閑古鳥代々の声つき抜けり

    花卯木乱れる故郷墓とせむ

    朴の花らせんのように轆轤ひく

    水指しを作らんとして泥涼し

    喜雨ありて陶人走る跣かな

    栗の花縄文人の裔である

    猫のように生きるが極意麻の袈裟

    梅雨寒むや新幹線の客まばら

    フクシマや十薬の群れ目にしみる

    紫陽花に望郷棄郷別れ道

    廃炉なる文明の棺八重葎

    木下闇終着駅の地下通路

    新宿の蠅いる店や監視鏡

    電算の洪水人は裸なり

    蝸牛アンモナイトの幻視かな

    人類の出アフリカや夏の月

    遺伝子の流れの果てや枇杷を食う

    星月夜タイムトリップの孤猿



        新 樹         伊 澤 二三子


    初夏の雲を抱きこむ大蔵王

    雲の峰コンフリー食む牧の牛

    五月の陽阿武隈川を滑りくる

    保育器に息づく命夜の新樹

    手鏡が五月のひかり集めゐる

    墓山の光を溜めて麦の秋

    緑雨なり旅の駅舎の時刻表

    ふるさとやわれを旋毛に青嵐

    今生の玄界灘へ卯波立つ

    浦風に産声乘せて葛桜

    ぼうたんのひかりは母の月日かな

    万緑の遠き風あり乳母車

    水音へ園児の素足ならびけり

    路地裏に朝顔の苗なだれだす

    忘却の喜怒哀楽や青葉潮

    流雲を仮設にとどめ朴の花

    津波あとの古墳の疵や半夏雨

    震災の友の遙かや夏の月

    動脈に波音たまる木下闇

    裏木戸に山の音あり夜の新樹



        木の天使        渡 邊 氣 帝


    曲線を生涯として蠅生る

    閑古鳥育児放棄の声を出す

    谷川は岩が常食夏来たる

    なめくじに塩舐めさせて東京へ

    薔薇苑の木椅子に捨てて来たプライド

    放屁してどこか煌めく裸かな

    祭来る八方破れのひかり得て

    夏手袋最後に鼻をすすりけり

    ぐにょろっと君等の目玉熱帯園

    鎧戸を木霊がたたく避暑館

    官能を死語にさせじと夏炉焚く

    青葉木菟言葉消えても染みてくる

    舟は木の天使その愛南風へ

    善と死の中間を夕凪という

    人声を呑んでは吐いて草いきれ

    靴音よこれがとっときの暑さだ

    被災地の瓦礫のごとく暑に耐える

    針箱に母を探して夏の風邪

    豹柄になりかけている鰯雲

    囮というびっくり函のような文字



        城の崎にて        瀬 古 篤 丸


    山陰本線の駅にて夏の日の終り

    裏日本黙の日落つる青葦原

    薄闇や青鷺の羽冠吹かれゐて

    夕焼は温泉宿(ゆ や)の茶碗に落ちやすし

    しばらくは暗きままなり夏座敷

    扇風機造花吹くため回りをり

    男湯の出口の見えぬ火取虫

    湯治客の下駄音縺れ百日紅

    火蛾墜つるいまだ人ゐぬ姿見に

    夏蜜柑ある時傷は美しき

    ろくぐわつの手相見の手に夜の翳

    山梔子は夜のあはれを塗り余し

    客を呼びとめて蚊柱崩れけり

    黴の店人形は銃口見つめ

    金亀子夜の玉突きはじまりぬ

    忘我とは音なく崩る遠花火

    十薬はときのあはひを灯すもの

    自転する星と往き交ふオーデコロン

    水無月の月影つまむ女下駄

    城の崎の夕焼なりし寄木細工

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