2014/3 №346 特別作品
鬼房忌 越 髙 飛驒男
神無月五欲幾つか忘れたり
お辞儀するまぼろしの象クリスマス
ひともじやつつをのぞけばふくらはぎ ひともじは葱のこと
六林男節冴え寒月は鎌となり
終りまで難し耕衣の日めくりは
冬の竹福田基に会い得ずに
天命を信ぜず年を祀りけり
人類がとぐろを巻いて初詣
一月の初めの日なりなんとしょう
初湯して子に年金のこと聞かれ
かんむりを載せ初雀一家来る
百歳や枕の下の宝船
花豆のふくれて膳の二日かな
人の日や小公園に凧揚がり
お降りのなくて六日の暮れゆけり
冬日燦糊代ほどの余命得て
草卵産み落とす鶏鬼房忌
縄文島菅野茂甚の笹子鳴く
口真似の筒鳥夜鷹乙猪子忌 三月二十三日
鬼房の羅漢山から初音して
されど新年 増 田 陽 一
共鳴りの聖夜の鐘と救急車
点滴の落ちる早さに歳は逝く
歳暮騒ぎてゴヤの絵の老女たち
初日影目白も鵯も影絵なり
遠富士や体温計が笹鳴きす
「笑気」のレバーとは何ぞ病院冬廊下
空間に神経科医と冬の鵙
冬日射す動物園を二日の夢
冬闇の中にゴリラの黒瞳あり
脱ぎかけて冬かと思ふオカピゐて
海鼠の如車並べて歳明けし
新撰組滅びしところ笹子ゐる 流山市
百年の麹菌這う寒の凪
見えねども鴨繚乱の土手向う
この土手の続きに去年の菱喰も
叫ぶのは枯向日葵か戴勝
鮟鱇消され深海の気の残る
水仙に鼻腔の徹る零度かな
上空に鴉の気流冬の樅
オホーツクほど身に痛し寒夕焼
冬怒濤 小 野 豊
祖父の声父の声あり冬怒濤
跳ね返す力礁に冬の浪
ひ弱さは飢ゑ知らぬ故冬すみれ
痛きほど潮風を浴ぶ冬木の芽
来し方をモノクロームに雪しまく
蟠り終に融けざり雪女郎
涸川は傷痕であり冬の空
光の尾水面に垂らし冬の月
海面に微かなへこみ冬の月
海溝に遍く注ぐ冬の月
極星に直立不動裸木と
濫觴は胸中にあり冬銀河
奇跡とは引き寄せるもの冬銀河
抜け出せぬ胎内潜り冬の星
星冴ゆるこの世の闇の深きほど
胸中に軋み走らせ星凍つる
寒月光透かす水面の底ひまで
寒月光生きとし生けるものに口
整はぬ体内時計如月来
如月来メトロノームを早めにし
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