2014/4 №347 特別作品
ナ変活用 我 妻 民 雄
俳句よりハードボイルド読みはじめ
青い眼の人形どこに雪がてに
上じやう目鼻つけたる雪達磨
祭のやうに神田川雪ざんざ
濡れ羽色のぞいてすべて雪冠
ばたんきゆう深酒あさき夢は見じ
雪かづき倒る残んの実南天
憲法は旧仮名づかひ雪兎
奥書に押し花むらさき馬肥
春の風翁と媼ハグをする
俯けば仰向いてをり犬ふぐり
菜の花やナ変活用「往ぬ」と「死ぬ」
下萌や生きてゐるもの手をあげよ
だんまりの車座咳をする一人
放射能怖し三年寝て覚めて
ゲンパツはつまりゲンバク四月馬鹿
存分に雪は降つたか雪ぐとや
汚染水うたた漏れゐる余寒かな
一生は地球四周青き踏み
てのひらに石斑魚寄するや春の水
万歩計 日 下 節 子
病室の窓に鳶の輪春隣
雪嶺や縦横に畦走りをり
病窓をはみだしてゐる春の虹
句集捲る夫の指先雪降れり
医に託す夫の余生や笹子鳴く
春を待つ介護の部屋の万歩計
日溜りを夫の座とせり福寿草
信じ合へば悔いることなし根深汁
ひと匙の粥のきらめき梅匂ふ
白梅のほぐれし一花母の忌来
探梅やあと何キロとうしろより
梅園の香や墓山を真向ひに
しばらくは山の日差しが冬障子
水平線がふくらんでくる旅始
裸木の瘤の中より波の音
倒木に豆粒ほどの冬芽かな
煮凝に海の光りと波音と
鴨のこゑ風にのりくる夜明けかな
畦道にほんたうの空頬被
足許にあしたの光寒菫
滝氷柱 半 澤 房 枝
明王の火焔を蔵し滝氷柱
明王の鳥居に吹かる冬桜
冬枯れの明るさを持つ櫟山
枯柏夜な夜な風のひとり言
砦址の辺の蝦夷冬桜吹かれけり
身じろぎて寒鯉己が位置定む
塒鳥寒夕焼の朱を引きて
楪や一斗升より米あふれ
鴨一陣二陣とつづき水の綺羅
身ほとりの枯一色に訣れあり
巻き取りし蜜の重みの冬日かな
修復の鵄尾輝やけり初山河
初東風に鳶放心の輪えがく
初春の一歩に満つる野の光
雪雫一直線に影落とす
春耕の土黒々と息吹きけり
三椏の花のねむたき渓の音
山の声集め雪代叫びけり
薄氷の絹の光や方円に
羽後訛り囲む榾火や矢羽縞
御 岳 中 村 春
潮騒の威部燻り満つ寒の明
八雲の机まことに高き余寒かな
末黒野の涯に臼杵の磨崖仏
立春大吉しだれ桂の縷々と
読経の浦風にのり残る雪
金環日食牡丹散る音のして
大屋根の影落としをりクロッカス
空砲の一発二発春時雨
詩囊肥えるか筍のブラマンジェ
崖路ゆく象の背中も春日かな
星空の厠なりけり春休み
弓なりに少女の遊び春の雲
三月の御岳の水の潺々と
ものの芽にかがめば枷の解かれけり
春は曙キメラの鶏が庭にゐる
空っぽの揺籃に風飛花落花
一徹な魂ありて春の蟬
切支丹隠れ洞穴里桜
うりずんの発電船の黒煙
戦闘機の訓練今もさくら実に
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