2014/6 №349 特別作品
なめとこ山 阿 部 菁 女
保安帽の中に摘みたる蕗の薹
馬鈴薯を植う沢音に耳澄まし
百千鳥なめとこ山はまだ寒い
もぞもぞと出て歯朶の芽の毛むくじやら
湯の渓やきぶし貧しき花垂るる
蕗のぢい蕗のばあ日のうらうらと
片栗や花巻乙女よく笑ふ
指先の楤の芽の棘夜も疼く
虹色の雨が降るなり桂の芽
不来方の花の下なる綿菓子屋
肩車して亡き子に見せん朝桜
山吹に触れつつ車椅子が来る
鈴の音の聞こゆるやうに稚児桜
この宮の長鳴鶏も羽抜鳥
紅指に春夕焼を溶いてみん
結ひあげし粽にあをき角三つ
山滴る捨てし故郷も青からん
ぎんどろを五月の雨が降りつつむ
清水のむ南部絣の膝ついて
繭秤据ゑたる土間の青葉冷
道 遅 沢 いづみ
銀閣寺みたいな民家枯葎
この道はかつて汽車道梅の花
椿咲く坂に浪曲子守唄
歩道橋写真三月十一日
駅前の坂は変はらず竹の秋
木遣り歌いま祝ひ歌披露宴
桜咲く駅前子供連れの猿
山桜ここは江戸から三十里
春昼の橋渡るブルートレイン
野ざらしの大仏へ修学旅行
春の海鎌倉ベレー帽の町
風船が空に吸ひ込まれ柴又
車谷ピアノ教室遅桜
神宮の裸電球春深し
五月田に広告塔や両毛線
まぼろしの鯉幟足尾銅山
幻想の黄色いハンカチの足尾
ハンカチを持つことの避難訓練
ハンカチの忘れ物ありハナエ・モリ
黒磯の先は東北で新緑
連 翹 佐 藤 み ね
転作の葱の整列はぐれ雲
胸中の三月の海渦まきて
紙雛の遠きまなざし水の音
外国の波の音あり春の空
雨粒に午後の陽光桃の花
水切の子と追う春の光かな
春の月汽笛は濡れてわが胸に
蘆の碑の影深くなり百千鳥
山畑の畝の不揃い囀れり
青空へ曼陀羅めけり芽吹山
眼裏に昭和まだあり春障子
沖の声耳に残りて四月来る
原発の歪みを論じ花筵
石積めば心のやどり山桜
土踏めば父母の恋しき桜かな
山の木の膨らんで来る花曇
野遊や別な私を探してる
紅梅や少女の髪のつやつやと
地震跡の空を自在につばくらめ
連翹の重なりあいて影もたず
春光の束 神 野 礼モン
屈んでる母の顔あり梅の花
陸前の津波の記憶春の雪
三年の春余震続きの中にいる
身の内に余震が残る朧月
万人の心動かす黄水仙
鰐ヶ淵天に仰ぎし諸葛菜
円すいの膨らみ霞む開聞缶
猫の恋傷舐めつつも鳴きにゆく
カーナビの声に相槌山笑う
春潮や頼賢の碑の錆深き
せせらぎに母の声あり山葵摘む
朝東風や癒す雄島の磯馴松
出羽の国の古き匂いや木の芽風
春光の束雄島へと橋渡る
沈丁花黄色に誰も気づかない
春の海舳先に津田梅子の影
サイフォンの沸沸沸と蕗の薹
壁紙の竜動き出す月朧
白魚に無数の光点と点
定義山
白木蓮勝軍地蔵の頭の光
人間関係 郡 山 やゑ子
草臥れし中枢神経朧月
さくらもち人間関係さておきて
ぞくぞくと草の芽ひ孫十七人
春風に同情されてをりしかな
春しぐれ魚の唇愛しかり
人潰す人々をりてシャボン玉
土香るサフランの芽の集ひけり
霾るや穴を掘られて発奮す
アネモネとドラマのラストシーン見る
嘘と嘘重なり合ひてかげろひぬ
蕗の薹犬に噛まれし膝小僧
わだかまりほどけるやうに春の土
曇天の大樹の陰に蟻の列
目で見る俳句
たとえば、駄句ではあるが
水仙を凹む心に挿しにけり
という句を作った。とても落ち込んでいる時に、若者言葉の「凹む」を思いつき、
凹むという字をじぃーっと見ていたら、花器に見えてきた。そこに大好きな水仙
を挿してみた。本当はアネモネなどの花の方が元気が出るかもしれないが、圧
倒されてかえって凹むかもなどと思いながら・・・
俳句は長文などと違い、瞬時にパッと目に入る。それゆえに、五・七・五の短い
言葉の取り合わせで、長文では味わえない字面遊びができる。漢字、ひらがな、
カタカナ、時にはローマ字など、それぞれの雰囲気を内容と共に楽しむことがで
きる。
最も、俳句は内容が大事なことは重々わかっているが、字面もまたその一部と
思い、私なりに楽しみながら、俳句と末永くおつきあいしていきたいと思っている。
(やゑ子)
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