常闇に斃れぬように梅を干す
野点傘そこは筍跨いで通る
旭光に日時計あわす森林浴
白砂青松濡れて生まれる心太
髪洗う山の畑に逃げ込まれ
人に馴れる新種の河童に水番させ
灼けた遮断機空気も灼けて喉仏
浴衣着る怖れて家を離るとき
昭和だなマドロスパイプハンモック
蚊柱は夜そのものの頭かな
四季めぐり青大将が鉛筆ほど
暑気払うポポンと肩を叩かれて
海鞘握 岡 田 明 子
魂宿るはくれん高し多聞山
薫風や子離れやっと出来し身に
大津波来し海青し海鞘握
祥月やジャーマンアイリス影拡げ
クロッカス閉じる昏るるを怖るかに
イヤリング外し暮春を老いてゆく
建ち捗むビルに新樹の光かな
丁度合う形見の指輪よもぎ摘む
野の息吹摘み来て供ふよもぎ餅
葉ざくらや湖心より闇這ひ上る
柿若葉生れ来る子は男の子かも
一病もなけれど哀し彼岸西風
雨の芍薬一本剪りて供へけり
いちはつも出羽の湯宿も雨の中
芍薬の崩るる時のかほりかな
深々と鳥居の奥の木下道
みちのくの重たきものに竹の花
空いっぱい鈴振る如くさくらんぼ
夏山の奥に白しろ銀がね月の山
重ねたる齢にしかと初夏来
大往生 冨 所 大 輔
年の酒喉を通す生き残り
雪はゆっくり切れ切れの息を吐く
うつしよの一夜で築く雪景色
いうなればいのちの伸びる軒氷柱
永き日のいのちものびて湯浴みする
よく動く赤子の諸手春陽さす
春雪を被りて怒る鬼瓦
同居する春のインフルエンザ菌
わが足が我を運べば木の芽張る
啓蟄や墳墓は何時も深眠り
蒼穹を画布に残雪越の山
春浅し座浴で宥める血のながれ
野仏の相好崩れ水温む
若死にも長寿も難儀柳絮とぶ
蕗の薹橋渡りゆく二人連れ
彼岸寒大往生を読み返す
目借時独りに馴れて存える
菊根分けグラム単位に育つ稚児
逃げ水や老人は追うどこまでも
花は山吹生涯ここに住みとおす
夏の蝶 柳 正 子
日に透きてもう空の色夏の蝶
蒲公英の絮のいくつか雲に乗り
あれが滝これが渓谷世田谷区
夕焼を掃いても掃いても齲歯痛し
壊れしは私と薔薇の花びらと
見えそうで見えない夏の星が好き
雨の灯の瞬き闇とふれあへり
栴檀の花の香空はひろびろと