朝刈りの千草を背負篭に立て
こきりこの里の日溜りカンナ咲く
草の実をつけて信濃の宿に着く
種山の漆紅葉やカレーの香
種山が原の古道や虫しぐれ
腰伸ばす農夫ひとりの刈田かな
帽子ま深に賢治の帰る刈田道
長屋門入る晩秋白い月
ドアベルの珈琲店のりんごかな
照紅葉ここより先は南部領
ドリップコーヒー絵から紅葉が降ってくる
さらさらさら白樺黄葉しゃべり出す
裳 裾 渡 辺 規 翠
竜田姫裳裾の音が夢の中
晩秋の星座を辿る津輕三味
佛にも鬼にもなれず木の葉散る
初冬の灯しがかすむ露天風呂
口下手な人を集めて落葉焚
トンネルを抜けて陸橋冬に入る
長き夜を止つたままの掛時計
木枯に縄文人の声がある
肩書きは昔の噺冬帽子
枯蓮に言葉がありて人を恋ふ
ピツコロに誘はれて居る落葉籠
佛滅の日差しを集め冬葎
今日の我昨日の吾や冬木の芽
トランペットの風に乗りたる冬の蝶
雪かむる蔵王連峯雪明り
コルク栓外して行きし雪女
宝石のひとかけらなり冬菫
銀河から届きし明り雪兎
極月の海からあがるピアノ音
ビー玉が転がつてゆく年の暮
定位置 山野井 朝 香
バスを待つ表参道いわし雲
小説の続き刈田の中をゆく
逡巡の言葉のありて蕎麦の花
放浪の疵跡のありラ・フランス
傘立てに蟋蟀のいる美容院
とまどいを形にしたる樗の実
丹田に息ひそませて紅葉山
百舌鳴くや舟を見に行く誕生日
紅葉山よりティンパニが鳴りやまぬ
人参のグラッセ利き手をゆっくりと
北窓を塞ぐや点る電子辞書
山茶花のすぐにも散りたそうに咲く
すぐわかる嘘にはじまる落葉焚き
加齢すんなり定位置の寒卵
含羞のふっと生まれし冬の湖
冬の昼喪の家の地図受信せり
風花の熟知の森を眠らせて
冬日差す港町にて散会す
胸中の滝音やまず久女の忌
おとうとを中州におきし小春かな
羊探しに 関 根 か な
喧嘩して仲直りして秋夕焼
桟橋に腸の影秋に入る
たましひは無色にあらず赤のまま
遺影無き通夜の遺影となりし月
死ぬ夢を見ては鰯雲の数
けふもまた本心鬼灯の中に
花野には遅刻しないで行くつもり
笑つてゐるはずです明日の朝顔は