2015/2 №357 特別作品
君 は 佐々木 とみ子
髪しろくなり初雪がもう近い
こんなにも婆いて歳末助け合い
沢庵の味よくあがり十夜講
雪降るよことりともせず人はゆき
仆れまい霜のせいたかあわだち草
うごかなくなった時計と氷面鏡
冬蝿と残りすくない日を分かち
肉眠り血もねむるべし氷面のした
八十と三歳くしゃみたてつづけ
シャーロックホームズ的な冬帽子
しゃがんでも立っても寒い署名乞う
老獪なからかなみだが凍らない
半鐘は鳴ること忘れ女正月
百人に百本の匙クリスマス
半身は根となりながら冬籠
もの影のふくらんだよう冬至過ぎ
年を行く熱くてでかい馬の尻
冬山へ両手を洗い口雪ぎ
世去れよされ雪が狼煙を上げるとき
オリオン座星雲だったのか君は
俳句失速上野公園酔歩して 増 田 陽 一
長須鯨の大曲線や冬の空
海失ひて公園に鯨落つ
骨となり鯨と象の相遇へり
ザウルスや銀杏の漿果踏みわたる
禿鷹凍てて己が肉突つきをり
冬日向吾に親しく象揺れて
午後よりは影深くなる冬の象
一群の園児を虎は素通りす
虎を凝視る少女自傷にほかならず
後頭を肩に埋めて冬のごりら
ごりら見て動物園の冬の坂
白熊は擬岩抱へて冬を喚べり
凍雲やレッサーパンダ木の股に
後ろ向くオカピに冬の匂ひくる
燦爛と寒き刺立つ豪猪
半裂や冬の水泡を全反射
温室に蘭科植物となる蛇よ
冬落暉ワオキツネザル叫喚す
檻といふ異界に冬日忍び入る
酔歩して上野不忍蕭条たり
冬木立 小 野 豊
冬の蜂今日のランチはオムライス
三畳の書斎の窓に冬西日
一木に一本の影冬木立
影法師木立ちの影と枯れ尽くす
不確かなこの世を染めて冬夕焼
冬の星イデアにイデアの影一つ
衰へし五感で仰ぐ冬の星
海面は光るレリーフ冬の月
軋みつつ我が身伸ばせり崖氷柱
冬霧に濡れたる朝の遠汽笛
蜿蜒の涸河辿れば冬の虹
分かつもの希望のみなり冬燕
冬雀匍匐前進など知らず
手の平の雪を融かせり心音で
人中に居てこそ孤独冬の駅
レモネード冷めても温し隙間風
ロシア劇終へて無言の息白し
手袋を外し最後の握手なり
冬北斗着信歴を消せぬまま
露和辞典一冊残し冬銀河
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