小 熊 座 2015/4   №359  特別作品
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      2015/4    №359   特別作品



        木の芽晴         郡 山 やゑ子


    わが道をゆく連翹をなだめゐし

    かたくりの花横顔の気になりぬ

    猫柳十指絡めて背伸びせし

    唇にメンソレータム落椿

    注射器の向かうに光るヒヤシンス

    春禽やとぎれとぎれに歯科の音

    まんさくのパーマネントのゆるやかに

    目と口と耳を塞いで春待ちぬ

    猫丸くゐし冬の扉を閉め忘れ

    真ん中に生まれて自由花辛夷

    亡き人に都忘れの濃く薄く

    仲春や首に齢重ねゐし

    春寒の掌薄くなりたるよ

    茎立や腕痺れし音のする

    チューリップ耳裏のツボ押してゐる

    鼻で吸ひ口で息吐く木蓮花

    心底に桃の蕾のこぼれゐる

    アネモネに目薬一日三度四度

    共に食む不思議や海鞘酢牡蠣フライ

    熊谷草終の住処は此処で良し



        陽 国         中 村   春


    激戦地ポインセチアのいや高し

    あの世でも蛇皮線(さんしん)弾くか冬の月

    甘蔗刈結ひのお爺は黒目勝ち

    米軍の探照灯や枯芭蕉

    土饅頭囲みたんぽぽの返り花

    朔旦冬至バス停も赤瓦

    木洩日の斎場御獄(せーふぁーうたき)笹子鳴く

    おかつぱの赤い雨靴仏の座

    水音の絶えぬ地底や冬日和

    ラフテーは煮凝もどき壺屋焼

    相思樹の揺れる戦跡春隣

    キャンパスの隅の夕暮寒桜

    旧正月や混血なれどアグー豚

    初蝶は海の光となりにけり

    桑の芽や二十歳が紡ぐ糸車

    語り部の腕の弾痕暮遅し

    蜥蜴出づ松籟の座喜味城跡

    砂浜の四竹踊(よつだけおどり)弥生来る

    少年の指笛もあり御清明(うしいみい)

    陽国の獅子の呻きか朧月



        平 泉         太 田 サチコ


    山門の垂氷の曲り松の瘤

    堂塔の結ぶ凍道中尊寺

    門前の金運ダルマ日脚伸ぶ

    梵鐘の「撞くこと禁ず」竜の玉

    冴返る金色堂の巻柱

    須弥壇の奥の栄華や雪起し

    竹林の撓ふ細道牡丹雪

    弁慶の霜の声なる能楽堂

    遣り水の凍る大池毛越寺

    雪吊の大地の歪み赤子泣く

    風花の大泉ヶ池鎮もりて

    煩悩の鐘は撞かずに雪女

    みちのくの空はま青に滝凍る

    寒晴の北限といふ磨崖仏

    雪原のまつ只中や義経堂

    兵の夢を暴きし春の虹

    束稲山の大の一文字春隣

    山あひの風孕みをり軒氷柱

    しばれ夜の鉛温泉立湯して

    春寒の旗の閃めきわんこそば



        梅の花         清 水 智 子


    露けしや人に耳たぶふくらはぎ

    木枯しを生む男体山の雲がくれ

    木枯しの諸手広げて関入洲

    子育ての記憶はさだか霜の晴

    一隅を照らすたとえば竜の玉

    防人の声とも風花舞い来たり

    まばたくを己の糎に冬の星

    乳張りし牛の一声寒の入り

    子に添い寝せし頃のあり青葉木兎

    晩年の間口あかりや煮大根

    橋の名は幸来二月の蔵の町

    落ちてより我とりもどす紅椿

    米といで母の昭和を思う冬

    霊宿る雪の日光杉並木

    寒波到来列島の骨軋む

    待春の海の色して切子盃

    空気にも切れ味のあり梅の花

    仁王門抜け来て春の蝶となる

    新人社員陽炎となり急ぐ

    木佛の木目浮き立つ寒の明け





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