小 熊 座 2015/5   №360  特別作品
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      2015/5    №360   特別作品



        指定席         森   黄 耿


    色同じ兎一羽と雲一朶

    金縷梅の万字縺れに取り巻かれ

    春立つや骨片入るるペンダント

    かいつぶり泛く逆光の記憶かな

    風花の触れし唇なりもの食へり

    磨ぎ減りの刃物一本茂吉の忌

    春一番﨔の胴に詰まるもの

    てのひらに来し方ありて二月尽

    三津五郎梅勘三郎桃の花

    生臭き牛乳を飲み春の宵

    われらみな水子と云へり吊し雛

    帯〆の総たつぷりと上巳かな

    花冷の誰に用意の指定席

    幼子の嘘風船の破裂音

    寄り添ひて夢乳いろに蜆貝

    彼岸荒れ海蝕岩と胸板と

    無駄骨のそれはそれにて春北斗

    囀れり落ちたる一羽知らぬげに

    変貌の町に帰り来つばくらめ

    蝿生まれ地鳴り耳鳴り続くなり



        ハルゴタビ       吉 野 秀 彦


    春はあけぼの懸垂は鉄の匂い

    春愁い真実の口に手がいっぱい

    春の音持ちて流れよ我が血潮

    風紋のように畝あり菠薐草

    光合成するか春日の中に猫

    地の神の褥となるや春の泥

    春北風蚯蚓のように新幹線

    春の風邪金の瞳の猫がくる

    走るとは孤独の受容梅月夜

    待つ方が好きペットボトルの水温む

    車止め外す寺領に春の空

    まだ四年もう四年花種を蒔く

    迂回する車列なす鳥雲に

    ホントウノコエヲキキタシハルゴタビ

    たんぽぽ咲いたか銀色遮蔽壁

    貞観の仏も見るや桃の花

    パソコンの底から霧笛三・一一

    おんころころ陸奥の仏は花の中

    蕾とは勇気の起点花りんご

    塊のいのち解くや蝌蚪の朝



        春 潮         田 村 慶 子


    春落葉波音嵩む座禅屈

    干潮の底の底まで風光る

    野茨に引き止められし古ジーンズ

    草萌やここは雄島の崖っぷち

    春潮のひたひたひたと島祠

    春光や友と居てみな海を見て

    双子島手が届きそう木の芽吹く

    鳥の目にひたすら春の霙かな

    島々は所定の場所に海苔の篊

    ぼろぼろの句帳離さず青き踏む

    春の雪ここは船霊様の域

    足元に来て春の潮のとどまれる

    帆船のバラストの石冴え返る

    大砲の冷え冷えサンファンバウティスタ

    裏坂に昭和の屋敷雛祭

    一の宮裏の洋館春兆す

    春愁も畳んで積みしシャツ・ズボン

    三度目の宅急便や春の昼

    日曜の無人の家の君子蘭

    吾こそは厨俳人山椒の芽



        断 片         宮 崎   哲


    雪解のレールの先が我の里

    残雪や兄と弟同じ顔

    春一番大風呂敷が膨れおり

    姉三人一人欠おり土の雛

    長女次女三女の声や雛あられ

    桜餅三枚食えば潮の風

    海鳴りも地底の声や落椿

    陽炎を通り抜けゆく死者の群

    漁村まだ陽炎のまま居据りし

    春の月地球は今も青色か

    宇宙には宇宙の灯春の月

    春の雨電信柱だけ続く

    地の果てにゆくために乗る春の月

    春愁や枕の下に小冊子

    網棚の小さき綻び春愁

    父叩くトタンの音や春夕べ

    全部捨て一つ拾って春の夕

    金工の祖父のキセルや風光る

    風光る父の足跡ただ辿る

    青き踏む遠くが見えし金釦





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