小 熊 座 2015/6   №361  特別作品
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      2015/6    №361   特別作品



        老いの春         阿 部 流 水


    ごそごそと薮鶯のお宿かな

    住み着いて四十年や笹子鳴く

    笹鳴や朝茶飲みいる寝惚け顔

    若き日の暗き熱情薮椿

    阿弖流為の無念を抱く落椿

    潮騒へ心澄ませる落椿

    水鳥の旅立ち近し羽づくろい

    呼び交わし山河を後に鳥帰る

    傷負えるものは残して鳥帰る

    鳥雲に沼は平に深呼吸

    志は高く高く掲げよ揚げ雲雀

    置き去りの牛低く鳴く涅槃西風

    残酷が残酷を呼び春寒し

    三月は岐路鬼房の生まれ月

    海境へ行きて五年目春の星

    喪失の故郷さ迷う春の夢

    逃げ水や復興探る被曝村

    春の海茫々取り付く島もなし

    夢の世の皆既月食夜の桜

    老いの春才子多病と言うけれど



        春満月          佐 藤 み ね


    声かけて返事の来そう春満月

    溜息の弾んで生るる石鹸玉

    遠き目で象は鼻上げ燕来る

    わが去りし後はかげろう大樹あり

    切株の年輪かたし鬼房忌

    剪定の午後のそよ風揚雲雀

    橋二つ渡りて花の雨に濡れ

    湖に映る木々から囀れり

    湧水の光に揺れる藤の花

    柳絮飛ぶ川の光を吸いながら

    春の空廻す園児の万華鏡

    ランドセル弾んで通る麦の秋

    かけっこの子等に絡まる麦嵐

    ラケットの風きる速さ遠郭公

    青くさき闇のうごめく夏来たる

    山影のさざめく川の花山葵

    緑雨あり傘をまわして子を待てり

    やまびこと溶けあう吾子よ風薫る

    甲高い鴉は樹上梅雨晴間

    山裾の暮色からませ合歓の花



        こだま          遅 沢 いづみ


    古代よりもののけの山霧深し

    妖怪のふつと振り向く神無月

    兄弟は鬼太郎世代虎落笛

    毛糸編む母の母らしい配色

    跨線橋北には雪の女峰山

    雪女ならば父を連れて行かぬ

    伝説の狐だつたら夜行性

    亡き父の煙草はエコー冬夕焼

    竹やぶは小さく残り冬の月

    あと少し待てば畑に春の葱

    うたかたの弾け春空晴れわたる

    一筋の水路春めく竹林

    ころころと小川流れる梅林

    古来より春とは鳩のグルッポー

    三月の鯖の缶詰め平常時

    一斉に花開き民族舞踊

    歴史上最近花の鶴ヶ城

    大雨の予報は外れ蛙鳴く

    もの言はず地震雷ああ親父

    河童淵おそらく小豆とぎもゐた



        潮 騒          神 野 礼モン


    薄氷に日の輪落として鳥の声

    籬島橋を渡れば春夕焼

    春の雨右脳へ右脳へと傾ぐ

    熊笹の揺れるばかりや鴨帰る

    新しき靴すんなりと春の虹

    潮騒は幼子の声石鹸玉

    百体の円空仏や土筆摘む

    円空仏あの世この世に初音きく

    万愚節タイトスカート短目に

    春の風邪仙台駄菓子配られて

    初蝶にフレアスカート踊り出す

    すぐそこがわからぬ迷路春霞

    太陽の底に千本桜かな

    山の気を春野に集め生きるべし

    桜風内に秘めたるわれの闇

    草若葉ウエスト少しきつくなる

    ウクレレの音鈍くなり菜種梅雨

    ぼんやりと過ごす笑顔の葱坊主

    風生まれ桜黄泉へと散りゆけり

    神霊の囁き聞こえ若葉風





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