小 熊 座 2015/12   №367  特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る


   







  
                            
      2015/12    №367   特別作品



        草木塔         阿 部 菁 女


    秋澄むや酒倉に聞く酒屋唄 
「東光」資料館四句

    酒樽の底の暗さよ残る虫

    裸電球読んで身に入む酒の詩

    酒を祝ぐ旅人の歌や秋灯下

    冷やかに草木塔のまろき背

    稲刈機夕日もろとも刈り終る

    バスに乗る刈田の匂ひまとひつつ

    剃りあとの初々しさよ花梨の実 
林泉寺

    瑠璃草の終の花なり草木塔

    野紺菊石碑の梵字アとウンと

    草紅葉濃し置賜の草木塔

    霧に濡れエゾガマズミのたわわなる 
小野川七句

    鵙猛る瑠璃光如来の堂の上

    地蔵堂より縋れつつ秋の蜂

    尼ヶ湯の薬師如来や実紫

    唐破風に冬迎へ撃つ構へあり

    破風板のはや黒々と秋気満つ

    桂散る仏足石の上に散る

    一の松二の松冬がすぐそこに 
伝国の杜二句

    橋懸りにて消え失せし秋の蝶



        十 月         矢 本 大 雪


    秋天に一生涯を問う夕日

    モネの絵を渡っておりぬ秋の風

    水平線秋のフェリーとまぐわいぬ

    般若寺のコスモスうるさすぎないか

    浄瑠璃寺弧身を置けば泣きだしぬ

    動きだすそぶりも見せず伎芸天

    秋の雲十二神将ひとくくり

    渋柿の渋が抜けたら人になる

    銀漢が阿弥陀如来につきまとう

    風のない刈田みている消火栓

    小春日の風垣の家ひきこもる

    ガルガンチュア無数の蘆の原なびく

    亡魂や芒の中に踏み入りぬ

    もみを焼く煙一人の突撃兵

    藁焼きの無言で出征する兵士

    白鳥が三羽渡ってゆく冥途

    遠くまで畦がつづいて父の道

    胸底に煙を吸って燃やす藁

    河までは赤のまんまを踏んでゆく

    亡霊の津軽鉄道横切りぬ



        朝 日         中 鉢 陽 子


    サルビアや吾に又来る誕生日

    蚊取線香らーめんの行列に

    一刷毛の雲に西日を混ぜ込んで

    韮の花今夜は星になりたいよ

    川沿の土塀朝日の竹の春

    よく喋る南瓜嫌いが南瓜煮る

    「たかいたかい」子を放り上ぐ秋うらら

    秋日和アメ横に買うポップコーン

    小春日や塩せんべいの塩甘し

    鈴虫の言葉がわかる今宵かな

    間引菜の翡翠の色をいただきぬ

    カーブミラーあふるる夕日の鰯雲

    列車一両コスモスを分けて来る

    秋の蝶ひらひらと去る古着市

    トンボ玉胸にはずんで秋の昼

    玉のよな子を授かりし良夜かな

    山鳩の声は冷静萩を刈る

    実り田に一夜の風の足跡が

    二杯目も白飯うまい野分晴

    冬仕度眼鏡かけたり外したり



        月の裏側        冨 所 大 輔


    いまはまだ炎えない青い曼珠沙華

    わが息に飽きることなく鯉幟

    翻弄されて歩きつづける青嵐

    ほぼ丸く事おさまりぬ立夏の月

    米寿とは祭囃子も遠くなる

    憲法記念日骨が皮着て生きている

    深更は魂の盛り場螻蛄の道

    不屈なる夢が午睡に侵入す

    噴水の音に絡まる風甘し

    生死同体窓にはりつく油蟬

    末期というシノニムのある梅雨と癌

    百日紅逃げ隠れして歳嵩む

    居座っていのちを狙う女郎蜘蛛

    夏雲や帰らぬ人の忠魂碑

    一山を緩る緩る巡る蝸牛

    藪蚊等もこの世の仲間と思うなり

    初秋の透きたる脳に風吹きぬ

    一日の安らぐ窓の稲光

    裏側を見せずかがやく望の月

    かまつかの頂点燃える野の残照





パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved