小 熊 座 2016/1   №368  特別作品
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      2016/1    №368   特別作品



        夢の色         渡 辺 規 翠


    コスモスの風から生れ夢の色

    余生には限りがありてほしづく夜

    縄文の人の声する神無月

    オカリナの風をまとめて木の実独楽

    落葉籠風にピツコロ鳴り止まず

    埴輪にも将卒ありて冬初め

    星雲を散らすが如く霰降る

    死者生者海鳴の中冬に入る

    摘み取りし後の淋しさ冬菫

    蛸壷がひび割れて居る年の暮

    初暦ピアノの音は星座から

    坩壷から飛び散る火花松の内

    神話から生れし如し冬木の芽

    言付のメモは一行室の花

    鬼房の色紙も飾り春を待つ

    土塊に生れしばかりつくつくし

    恋猫の瞳の中に春の星

    馬頭碑を囲みし明かりふきのとう

    綾取りの橋から洩れて花吹雪

    国生みの噺の初め春の闇



        鯨の血         関 根 か な



    亀鳴くや空にも土にも還らぬと

    初夏の真昼の一空間は闇

    紫陽花の枯れて始まる私小説

    また同じ人と食べてる冷奴

    サルトルは食べたかもしれない海鞘を

    心眼の動きし真夜の蟇

    胸奥に睡蓮咲かす水が欲し

    背表紙の「米壽」光りて秋日和

    戦前はいつの戦争鰯雲

    葉鶏頭詐病の人に真顔あり

    半月を入れてチャーハン出来上がる

    作り笑ひしてゐるわたし秋だから

    天に神地に神海に神深秋

    独り言聞こえるやうに冬に入る

    松島の樹液より生る雪蛍

    人の血と同じ色なり鯨の血

    雪催バニラエッセンスの小瓶

    出鱈目にされても鱈は泣きません

    凍蝶のもう生れてはこないから

    三月の鳥が鳴いてる泣いてゐる



        水かげろう       斉 藤 雅 子



    風花に攫われてゆくかごめ唄

    兄逝くや梅一輪というときに

    使う物減らしてゆきぬ春の雪

    人に添う一本桜暮れてゆく

    ひたすらに平和ひたすらに桜

    葉桜や父の軍靴の音確か

    新緑の宿に目覚める万年筆

    蜜蜂の羽音将門の軍勢

    鬼になりそうで万緑へ駆け込む

    黒南風の尻尾となりし江の電

    後の月浜に楕円を描くよう

    秋の蝶親鸞像をひとめぐり

    道鏡の住みしという碑秋茜

    百代の室の八島の瓜

    水かげろう刻の集まる小春かな

    菊の夜のパズルのような会話かな

    直感は木洩日のよう紅葉山

    雨音にトトロひき寄せ冬の夜

    しぐるるにふっと我が影足尾郷

    喪の師走雑木林が現在地



        ぱみゅぱみゅ      水 月 り の



    マリオンクレープ蝶に投げキッス

    風薫る東郷神社の勝守り

    メーデーのあおぞら国立競技場

    竹の子のヒロくん踊る白菖浦

    PONPONPON竹下通りに青い鮫

    ありあまるロマンス電磁波蝉時雨

    フルールドブルールカフェオレに鹿

    代々木公園遠いベンチに小鳥来る

    死んでしまう系のぼくらのハロウィン

    東横線通過列車に雪女


       学生時代、原宿に住んでいた。渋谷区神宮前1の5の3の東郷女子学生会館は、現在、セコムになった

      とか。今はもう無いパレフランスの3Fに長門裕之さんが経営する〝ゆたか〟というステーキレストランが

      あり、父と一緒の時、偶然、南田洋子さんにお会いした思い出もある。

       時は流れて、私以外の三名は、あの世へ逝ってしまった。生まれた家も、育った家も、懐しい店も、消え

      てしまった。大自然に圧倒されてしまう不自然な私は、やはり、遠い、あの日、あの時の、街が、街角が、

      懐しい。原宿の表参道にも、仙台の青葉通り一番町にも、ケヤキ並木があり、街を歩くと、失われた時や、

      懐しい人たちが戻ってくるような感覚に包まれる。

       郵便ポストも電話ボックスも、貴重な存在となってしまった。ルーズソックス発祥の店である大内屋さん

      が店を閉じてしまうのも惜しまれる。サル年である。

                                                               (りの)






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