小 熊 座 2016/2   №369  特別作品
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      2016/2    №369   特別作品



        野蒜の花         越 髙 飛驒男


    探し物している蟻や墓の上

    老人として扱われ七五三

    野蒜の花大森知子生きてます

    死ぬまでは余禄よ鶏頭起こす妻

    金魚槽磨く血糖値よ下がれ

    倒れずに老いる形の葉鶏頭

    階段の鈴虫が鳴く二階まで

    走馬灯おく小塚原コツ通り

    わが膝の払いし蟻の何処へいく

    埋葬なき守宮蜥蜴と遊びけり

    最後まで遊んでしまう蜥蜴の子

    台風を突いて外す冬近し

    不死男忌を画廊ルオーの珈琲と

    千住大橋千人針が始まるか

    句にさらばしたくなる日の冬の猫

    石蕗の花二時半の猫きて背伸び

    負け癖のゲーセン通り冬柘榴

    布団引っ被る原子炉再稼動

     「母老いて北の渚のようである」 剛
    山口剛北の渚に着く頃か

    伊勢丹に軽い昼食返り花



        朝の歌           阿 部 菁 女


    頭の中に満つまたたびの葉の白が

    郭公の遠音を入れて蕎麦を打つ

    青薄そよぐばかりやでんでら野

    すひかづら咲いて狐の関所とふ

    塞の神おはす西日の村境

    梅雨深くなる手びねりの土仏

    蚊遣して昼の曲り屋馬の留守

    夏蚕飼ふ昼も灯して中二階

    糠味噌の甕の並んで梅雨の宿

    桑の実のこぼるるままや六地蔵

    夏ぐみの木蔭に入れば馬臭あり

    蝿に肌なめさせわれも朽ち仏

    河鹿聴く座敷童を待ちながら

    法灯を盗みに来たるががんぼか

    受け口の娘ばかりや凌霄花

    旧道をゆく虎尾草に触れながら

    えごの実やポロンポロンと朝の歌

    葭切の声あをあをと馬渕川

    振り向けば蛍蔓がついて来る

    葛咲くや南部あねこの縞木綿



        昼の闇 葛西臨海水族園迷行   増 田 陽 一


    露か霜かの波郷に宙の観覧車

    冬日宙仮想の海を廻るかな

    鮮烈の魚散るばかり冬の窓

    永遠の鮫とどまらず昼の闇

    『老いたる海洋』マルドロールに墓あらず

    昼夜眼を閉ぢることなき鮪かな

    反転の鋼光りに黒鮪

    氷海の海鳥潜るわが頭上

    ギャマンクラゲ館山湾に採りしといふ

    褐虫藻透かせクラゲの逆さ泳ぎ

    冬の奈落 腔腸類の花ひらく

    曲線は蛸に極まる冬真昼

    毛糸着て幼児が笑ふ蛸も笑ふ

    冬の蛸垂直性を判断す

    刺胞まで神経及ぶ冬珊瑚

    棘皮類寒き末端伸縮す

    ぺんぎんの騒ぐ擬岩に冬日墜つ

    わが影の抜け殻めきて冬の波

    機の降りる彼方や牡蠣は喰ひ入りて

    冬日没る逆光の海ただ眩し



        蛇 藤           日 下 節 子


    手に触れるものみな床し冬座敷

    ふるさとの軋む閂一位の実

    寒晴や雀こぼるる鬼瓦

    店蔵の壁の崩れや冬雲雀

    冬日濃し店蔵被ふシートにも

    笹谷越え冬空越えて塗師来る

    出羽の地の塗師の訛息白し

    しぐるるや板塀高き蔵の町

    雪蛍ふはり氏神さまの空

    義士討入りの日やお濃茶賜りぬ

    お濃茶の匂ひや露地の冬紅葉

    お茶杓の銘は直心寒椿

    山茶花や心こもりし茶懐石

    掌にたしかな温み蕪蒸

    冬ざるる姥ヶ懐とは地名

    ざつとむかしの冬野や姥の手掛け石

    新蕎麦や民話の里の蝋人形

    語り部は予約制なりちやんちやんこ

    奥州の蛇藤の古木寒夕焼  
村田白鳥神社

    宗高の御廟に冬日惜しみなく  
龍島院



        大中禅寺         鯉 沼 桂 子


    山門のひらかれてゐる蟻地獄

    足音のひとつはわたし蟻地獄

    秋の蝶放ちて大中禅寺なり

    千年の由来ふむふむ柚子ひかる

    実南天寺に不思議の七つほど

    秋蝶を風が押し出す油坂

    卵塔にきのふの湿り竹の春

    ありありとこの世のむかし曼珠沙華

    百代の風の私語なり竹の春

    来ては去る月日のやうに木の実雨

    みな違ふ思ひのかたち烏瓜

    半迦坐の仏ゆるがす秋の蜂

    一山の影と引き合ふ烏瓜

    住職に客の来てゐる柿日和

    地に還る木の実ひとつは我なりし

    くりかへす二足歩行へ木の実降る

    家ごとの柚子ひかり出す供養塔

    弁当はそれぞれちがひ秋の昼

    裏山へ読経のあふれ杉は実に

    箒にも月日のありて柞の実






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