小 熊 座 2016/5   №372  特別作品
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      2016/5    №372   特別作品



        図書館          山野井 朝 香


    末黒野を行く柔らかな思考力

    失望が体温になる懐手

    霜の夜のかの足音はホームズか

    寒林へ無声映画のように消ゆ

    探梅や父に似ている羅漢仏

    図書館は夜汽車の匂い春の暮

    荷風忌や吐息のごとき猫を抱く

    待つ時間使い果たせし冬薔薇

    眉剃ってほめられるまで焚火せし

    蛇穴を出て全景を入力す

    下野の風の色なり冬すみれ

    未来から戻りきし色紫木蓮

    西少し明るくしたる雪柳

    焦燥の色のはじめの花菜かな

    寒紅をひいて螺施に老いてゆく

    待ち人は路地を違えて紙風船

    半日を旅する人と花辛夷

    里山は父を寡黙に春彼岸

    マナー辞典ごろんと春の廊下かな

    しがらみが解ける時に亀鳴けり



        春の雁          伊 澤 二三子


    初暦表紙を繰れば鳥の声

    初夢やこころの座標呼覚ます

    しゆんしゆんと湯気の滾りや初竈

    赤頭巾の童話を生みし春炬燵

    青空に遠見の枝や出初式

    一湾の太陽柱寒夕焼

    フィギュアのいはれの沼や寒桜

    串焼きの寒鮒匂ふ三和土かな

    春立ちて瞳輝く立志式

    埋もれ木に沖の光や春立てり

    まんさくや府の木簡の墨匂ふ

    蕗の薹日向へどつと吹き出せり

    山茱萸や魚道に滾る水の音

    春の雁まだ濡れてゐる村の家

    人影のなき雑魚(ざつこ)橋冴え返る

    春暁や水晶体を賜れり

    法堂の風鐸鳴らす春一番

    春雷や己のエゴを打たれたる

    ブロッコリーソース一匙春の虹

    神さびのかつら大樹や春の月



        花火のテーマ      遅 沢 いづみ


    いぬふぐりトーブ交通99

    いぬふぐり散歩千歩の早歩き

    合格の十五歳ポテトチップス

    脇道の椿初老の恋の道

    新しいズボンでバスに乗る彼岸

    永き日のどこでも停まる路線バス

    お彼岸の卵焼など狙ふ猫

    空腹の春お不動の鈴が鳴る

    陽春の中禅寺湖に帰らざる

    向日葵の孤独ぎつしりの面影

    復活から笑顔まで花火のテーマ

    絆ではなく粋だつた遠花火

    揚花火彼はポパイで清掃マン

    まだ生れぬ子孫に打ち上げる花火

    大西日一面鏡に掛けカバー

    蜩の目覚ましとなる母の家

    山の日に続き川の日鳶の声

    稲光キャーと叫ぶ子見てゐる子

    秋空に続く米軍基地の塀

    めくる日に何かが起きて星月夜





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