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2016/11 №378 特別作品
本 業 津 髙 里永子
本持たぬ日なし露けき骨密度
稽古用三味線の音柿の秋
かなかなの声にソーラーパネルかな
元気よく焦げ目をつけて初さんま
新米を炊くや余計な料理せず
人間の手からはなれて雨の稲架
老若男女問はず案山子に仕事あり
病院の窓なき茶房九月尽
遅ればせながら御礼虫の闇
桃啜り働かぬ姪嫁かぬ姪
色変へぬ松も古木も墓地の中
金木犀ひとめぐりして再会す
引き擦つてゐたるさるとりいばらの実
霧の灯を怖るる海となりにけり
撥打てば銀漢に橋かかりけり
前掛をして常温の今年酒
菠薐草なよなよと茹で上がりけり
エレクトロニクスにほどり連なりぬ
あたらしき橋あたらしき鴨の陣
本業に戻らぬ月の枯木立
蝦夷地 永 野 シ ン
秋天やポプラ並木の深き影
すぐそこが駒ヶ丘なり大花野
札幌に風の抜け道落葉道
飛ぶことを躇っている蓮の実
シスターの後姿や蛇穴に
クラークの像歩き出す良夜かな
ななかまど風の重さの五稜郭
土方歳三の見果てぬ夢や星飛べり
身に入むや胸に棲みつく運河の灯
白樺にひとり憩えば昼の虫
岬まで続く枯野や波白し
鯖雲や波音よりも高き山
羊蹄山色なき風に吹かれ来て
朝霧や羊蹄山を抱くかに
サングラス外して覗く地獄谷
空の青蝦夷竜胆の深き青
初時雨漁港の街の夕まぐれ
白樺は蝦夷地の光冬が来る
蝦夷蟬の声をたたみて深き山
秋日傘あと一息の地獄谷
星と太陽 俘 夷 蘭
キトラ古墳金の星座を見てみたし
秋星の爆死を記せる定家卿
萩も星も滅びる宇宙いのちなり
太陽の最後はいかに夜長かな
白色矮星ガスに包まれ見えぬ秋
太陽は百億年の秋生きむ
太陽の膨脹する日空は真紅か
太陽の死の直前は宝石のごと
暗黒の宇宙に消ゆるその日かな
滅びてはガスの塵から星生まる
旅に出ても家で暮らしていても、私は星夜をいつも眺め、想像して感動する。縄文時代も人は太陽、
月、星を眺めていただろう。それから天文の知識を得て観測などをするようになったのはいつ頃か。
七世紀初めに百済の僧が天文の書を日本にもたらしたらしい。日本書記には日食が初めて記録さ
れた。十一世紀初めには明月記で藤原定家が客星(突然輝き消えた)のことを記している。八世紀
には髙松塚古墳、キトラ古墳が奈良・明日香に築造され、星座が描かれた。キトラ古墳のものは金
箔で、星座に天の赤道など天体観測の基になる四つの円が見られる。この故に世界でも最古の天
文図と評価され、このほどようやく一般公開された。私も待っていたが、太陽も星であり、恒星で白
色矮星になると考えられている。
秋の夜空にさまざまに星の空想をした。これは実験作であるが、科学の上にさらに思いをいたすこと
も心をふるわせる。はたして読み手には俳句となるだろうか。少々ボケているかも知れぬ。
(夷蘭)
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