2017/2 №381 特別作品
「ラスコー展」の上野に幻を見る 増 田 陽 一
公孫樹黄葉発光体として滅ぶ
「考へる人」に黄葉の眩し過ぎ
二万年の壁より鹿の墜ちかかる
氷河期の地球照らせり獣脂の灯
岩舐むる獣脂の燭やマンモス冷ゆ
「洞窟獅子」と共に吼えるか古代人
大角鹿の全骨格に虎落笛
クロマニョンも纏ふ毛皮も絶滅なり
黒曜石劈開の鋭き傷みかな
獣消えし石斧に冬の貌映る
耶蘇仏陀未生の闇に星飛べり
猿酒もありしかネアンデルタール
冬熱き血の角鹿に牛原
象、鯨、骨の犇く昼の闇
肋骨に北風走る白長須鯨
寒月光の刺さりてをりし「地獄門」
ヘラクレス像股間を漏るる寒月光
裸女像にムササビ跳べり公園裏
クロマニョンも混る寒夜の常磐線
カミオカンデもラスコー窟も冬の闇
三浦半島つれづれ 志 摩 陽 子
潮風が旨みだつぺと大根干す
風車二基うなる中なり大根引
落葉踏む漁師の子らの声大き
海岸に干され大根の皺増しぬ
木枯に逆らふ波と萎える波
小春日の朝東北に震度六
波立たぬひと日なりけり浜千鳥
三浦訛の漬物談義冬ぬくし
さざ波を追ふさざ波の冬ぬくし
つれづれの一人吟行年惜しむ
「尾の長き崎の陽を受け歩む子ぞ」遠い昔、商店や家々を回り粋興に氏名や店名を詠み込み色紙に書いてくれた老人があった。成人の記念にと尾崎陽子を入れた即吟であった。
幾度かの引越しで色紙を失ってしまったが妙に心に残っている。予見されたかのように半島暮しとなって45年、時折思い出す一事である。俳句を始めてから「一人吟行」と家人に告げ車を走らせ三浦半島のあちこちを巡り、先の句を思い出したりしている。
三浦半島は東京湾と相模湾にはさまれ、奇岩も多く荒れる岬もあるが詩情ゆたかな城ヶ島を大橋で結び、沖に伊豆大島を望むことが出来る。海産物は別として何よりの産物は「三浦大根」と思う。作付けが減ったとは言えその旨さは格別で冬の料理に欠かせない。
平成8年に「真向ひに富士あをあをと大根蒔く」と詠んで以来四季を通して三浦を巡る。 三浦半島の温暖な気候が私の健康を守っていると思うこの頃である。 (陽子)
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