2017/4 №383 特別作品
嘴 中 井 洋 子
鳴くあとの開く嘴春の鳥
見やうとして見ゆる日輪朝の東風
背負ふがごとし如月の木洩れ日は
ゆきあひの雲の遠さよ地虫出づ
どこからも読める一本春しぐれ
享けるなら夜の雛の平手打ち
裏口は月を見る場所春満月
うすうす寂し魚影明りの春のふち
末黒野や絵文字ごころの行き止まり
地図の北うつつの北へ春の風
橋わたるとき風船を抱へ持ち
椿ほつほつばかげなる夢の後
春昼のひとりこちらを見つつ去ぬ
突つかれて書き留められし春氷
うぐゐすの連れになりたく川を越ゆ
身中にこゑをこぼして囀れり
死者をおく常のしづかさ春の家
名告らない色のごとくに薄氷
何の鳥か朝寝のなかに黒づくめ
春の雪ゆふべは繭の中を降る
離 岸 須 﨑 敏 之
冬広場電飾の宵仮に経つ
白鳥の流線型の流れ寝や
今生に失くした臓器霜解靄
浚渫は逡巡を漉し水温む
無一物たり得ず枯れ得ずと一個
土暮れて地鳴の雲雀覆いたる
寒鮒釣処に浮いて無人駅
白亜紀の寒礁に鵜を散華して
冬夜さんざめく若きらの苦さかな
深更の風邪身一本離岸せり
渡良瀬の野火の舌端身に籠る
東京都限界集落梅の花
走らねば飢ゆ猪の鼻っ面
鹿立つや銃眼額に定まりしを
煤鍋の火の粉を遠狐火と見つ
とっぱずれ尾花にネオン爆ぜ点けば
鈴鴨のむしろ口笛大団円
点景にして雪吊の縄はこぶ
クリスタルガラスのおしゃか枯野積
つぶらかに凍る湖国の明けの星
長十郎 中 村 春
廃校の玻璃の歪みや秋の風
秋の雲背面跳は終にせず
鄙歌や桜落葉を歩みつつ
金太郎カット我にもありし今朝の秋
長十郎抱く子をいだき核家族
土器を投げる色なき風の中
秋の虹片根は比叡山に立ち
桐一葉写経の筆をおきし時
陽をはじく李朝の甍鵯の声
金木犀は食べられますと留学生
エイサーの胡弓の音も薄明かり
十一月吊革のゆれ耳輪ゆれ
自販機のコインの音の冬ざるる
出稼ぎの人と隣りてコップ酒
日の矢差す大樹の下の寒椿
ふくら雀のコンクリートに弾みをり
文旦を抱いていつもの無精髭
顔上げて亀の十匹年の暮
さあたああんだぎ作りて寒見舞
雪兎新米パパは五十歳
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