小 熊 座 2017/5   №384  特別作品
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      2017/5    №384   特別作品



        朝がすみ          大 場 鬼怒多



    点滴に繋がれてゐる梅探る

    生国の雪の味する哀果かな

    鴛鴦の沓もの悲しさに引き摺られ

    革まる父の病勢枯野行く

    生命維持装置時に残酷紫木蓮

    涙のかはり壬生の宮川雪化粧

    ドレーン 導尿 北へ寒流なげきつつ

    きさらぎの病臥の瞼すぐ陰る

    薄れゆく意識の中の椿かな

    この世では生きては会へぬ鷹の声

    万感をこめて父呼ぶ野焼かな

    花辛夷あの世の明かり幻想す

    春なれば渡らず帰る橋一つ

    淡々と母の面影芹よもぎ

    皆までは訊ねはしない春の月

    空に水に夜は残らず鳥の恋

    早春の比叡でしたと聞かさるる

    春を生きる地霊地勢に抗はず

    中空に追ひつづけたる山椒の木

    あさまらみかれあさまらみさて朝がすみ




        外は雪           丸 山 みづほ


    冬うらら六人乗りの乳母車

    いくつもの山のバッチや冬帽子

    ふところに学校抱き枯木山

    棚田みな斜面に雪を貼りつかせ

    両の手で包む温もり加賀棒茶

    トンネルの壁の灯の列あたたかし

    山肌に雪崩の跡の幾筋も

    野菜掘る人影二つ雪の原

    雪の田に切株のあり街近し

    雪しまく地霊家霊を眠らせて

    彼の世への扉が開く吹雪の夜

    新雪を掬へば青き地球かな

    旅立ちは一人しづかに雪の朝

    膝掛を椅子に残してお焼香

    火葬場へ高くなりゆく雪の壁

    雪しんしん骨上げの骨カサコソと

    喉仏和紙に載りし寒土用

    会葬の一族の列風花す

    洩れたての珈琲供へ春隣

    この先は吹雪の標示西会津





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