小 熊 座 2017/7   №386  特別作品
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      2017/7    №386   特別作品



        花万朶         郡 山 やゑ子


    春昼の夢の出口がわからない

    スノードロップ雨の雫に揺らぎけり

    ふきのたうわが方寸の恋心

    山笑ふサラダに入れし隠し味

    まなうらに紫雲英明りとその闇と

    アネモネとやうやう友となりしかな

    をだまきは風の雫か精霊か

    浅春の眉間に潜む謎解きぬ

    ひとつ消え悩みまた増え紅椿

    立ち止まりつつ物陰へ孕猫

    首傾ぐ父似の弟竹の秋

    缶蹴りの合間つつじの蜜を吸ふ

    小さきこと忘れませうと春の月

    頭の隅に棲みつきしもの彼岸西風

    春宵や運針少し千鳥足

    葉桜の未来を語る風のこゑ

    ヘリオトロープしあはせといふ脆きもの

    白梅の下に男の高箒

    チューリップ反りて第一反抗期

    花散りて信心深き人とをり



        裁断によき日        さ が あとり


    揚雲雀そらのひびわれ金継ぎに

    心音もいつかガンデン壬生狂言

    仏殿を釈迦とシェアしてつばくらめ

    ゆゑにまでたどりつきたし蜷の道

    涅槃図の孔雀の目玉紋あまた

    丸吞みを会得したものより巣立

    象のはな子像のはな子となる立夏

    象の背に草原放つ青嵐

    葭五位はなびかず葭生なびいても

    裁断によき日のありて落し文

    優曇華や母の針箱踊り場に

    魯迅の本積ん読泰山木の花

    開高の墓にトリスや岩煙草

    音たててうどん供養や岩絡

    老鶯や小鳩豆楽舌にとけ

    往来へ出できし蟇め回れ右

    蟬茸の禍根もろとも引き抜かれ

    滴りは草間彌生の目玉から

    そこに山あり歩荷には足のあり

    船虫や崎津教会どこからも



        伊勢・高野行        春 日 石 疼


    蝦夷われ宇治橋渡る青あらし

    玉砂利はさざなみに似て若葉影

    風ノ宮土ノ宮農の国日本

    夏木立埒もなき私事祈るのみ

    娘のながき祈りは何ぞ薫る風

    古殿地にこそ神棲まむ雲の峰

    荒御魂太き根方に羽蟻噴く

    暗がりに新涼を乗せ神の馬

    神在せり万緑の吐く夜気の中

    神饌の干鮫に冷酒三本目

    「愛國」の扁額昭和十五年

    分骨を重ね高野の杉落葉

    いづこに眠る棄民貧民差別民

    生くるもの穴より生れて夏の霧

    青歯朶や墓石のごとく芭蕉句碑

    曼荼羅はポップ・アートや繡毬花

    抹茶アイス舐めつつ壁の来迎図

    深山へ消ゆ鶸色の夏衣

    千年後崩れる伽藍青時雨

    木下闇潜れば熊楠の宇宙




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