小 熊 座 2018/1   №392  特別作品
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      2018/1    №392   特別作品



        まだかまだか      髙 橋 彩 子


    夕端居国防色の父過る

    髪切ってうなじに微熱寒い夏

    不老不死ならはんざきの藪睨み

    コスモスやはぐれしままの弟よ

    薙刀の刃に満月の怯えかな

    平和なら泡立草に躙り寄る

    天の川一人弾かれエレベーター

    風の電話鳴る事は無し十三夜

    小鳥来る我が心臓のほころびに

    ジャングルジムの天辺にある秋思

    秋澄むや小石投げるに良き小川

    あたらしき街に黄落始まりぬ

    隕石の墜ちていそうな大花野

    過去捨てるには良き台風の来たり

    扁額の虫食い穴を秋の風

    百歳を生きる算段蕎麦の花

    屋根打つは海坂藩の時雨なり

    裸木に触れて余熱を奪いけり

    義士の日や検診結果まだかまだか

    枕辺にそろそろ来るか雪蛍



        冬紅葉         田 村 慶 子



    涸山水銀杏落葉の五・六枚

    薄陽さす枯山水や笹子鳴く

    雲流るお寺の庭の忘れ花

    古井戸の竹簀の蓋や石蕗の花

    冬紅葉地蔵も在す寄せ仏

    初冬の空堆く寄せ仏

    寄せ仏の享保・宝暦照紅葉

    雪催い鯉へ二言三言かな

    竜の玉鯉の口より異次元へ

    松手入音跳ね返す池の面

    冬紅葉みいんな死んでしまったね

    ツンツンと牡丹の冬芽輪王寺

    その底の紅葉黄葉や手水石

    人長の石の観音藪柑子

    着ぶくれのポケット鉛筆と句帳

    恭しくお庭入りして寒鴉

    千筋の白い砂礫の影寒し

    経堂をひと巡りして冬の蠅

    綿虫や豆地蔵にも手を合わす

    石塔を取り巻いている落葉風



        木の実独楽       蘇 武 啓 子


    新涼の風入れそそぐハーブティ

    山塩入り羊羹を切る野分の夜

    しかられて舌を出す子やちんちろりん

    花カンナ錆ポツポツと農具小屋

    新米一俵父の荷の届きけり

    コスモスやどの子も胸に金メダル

    牛の声消えし牛小屋赤のまま

    陸羽東線を飲みこんでいる稲の波

    憂き事の一つを叫ぶ柘榴の実

    飴細工飽かずながむる秋茜

    豊漁や萩の祠に小石積む

    菊膾供う母の忌雀来る

    八千草や読み人知らずとある石碑

    小鳥来る地蔵は頬に餡つけて

    澄む秋の空へ抜けゆく槌の音

    隠沼を鏡となせり櫨紅葉

    和同開珎の穴より秋の雲

    林檎捥ぐ度に地球の傾きぬ

    日矢届く刈田の中に墓三基

    段畑や地蔵の肩は霜に濡れ



        伊予の夏        丸 山 みづほ


    炎天の伊予に降り立ち深呼吸

    短パンと日傘乗り込む路面電車

    西日入る大きくカーブする市電

    三千年の道後温泉葭すだれ

    たつぷりの日差入れたる髪洗ふ

    十七音に向かふ気迫や伊予の夏

    熱さましシートを(ぬか)に伊予晩夏

    飢ゑを詠む若者のゐて涼新た

    暑き日の熱き眼差熱き声

    さはやかや教師のやうな語り口

    言葉弾け十七音の夏終はる

    天守閣蟬時雨突き抜けし上に

    かなかなや風潜りゆく隠れ門

    ぬぐつても拭つても汗天守閣

    瀬戸内より天守閣まで大夕焼

    西日差す二重天守の避雷針

    桔梗や愚陀仏庵に坐してみる

    古書店に子規の本買ふ夜の秋

    子規像の頭を撫でて秋に入る

    入れるなら秋風子規の旅かばん



        帰り花         髙 橋 森 衛


    弁解が枷になりたる帰り花

    追伸に柔らかな嘘花八つ手

    知恵の輪の外れるように涼新た

    サングラスかければ見える彼の世かな

    忍城の残り紅葉や白い影

    さきたまの枯れを纏いし古墳かな

    綿虫の城を抜ければ影の透く

    古墳とは大和の国のピラミッド

    敗荷や水に生まれて水に死す

    敗荷は水の精なり光なり

    山葵田を育てし水の硝子質

    木犀の人の容に匂いたり

    新走りちびちび飲んでみやこはるみ

    冬落暉影一斉に羽ばたけり

    芒原ひょっこり顕わる山頭火

    葉大根陰寄せ付けぬ青さかな

    極楽は手のひらに在り蓮の実

    蓮の実跳んで母なる水の中

    大利根の渡船あめりかへ流される

    硝子越し鮭の遡上に手を伸ばす



        木の実降る       神 野 礼モン


         松山にて五句
    愚陀仏庵に子規の声あり秋気澄む

    従軍鞄に子規の影見ゆ秋の暮

    天守閣へ入道雲の手が伸びて

      道後温泉
    湯浴みして五十五畳の夕涼み

    蓑虫の落ち着かぬ日の海の音

    近道なんてないよと蓑虫瞬きす

    木の実降る音に目覚めよ荒脛巾

    程近く疣の神おり空澄めり

    鵙の贄まだあおあおと日が匂う

    鼻節神社(はなぶし)の樹々に陽の音鬼薊

    草の絮ふうふうふうと双子の児

    野の露の粒粒すべて陽の匂い

    無花果ジャムのそのつぶつぶも小宇宙

    冬銀河パッチワークの中に湧く

    小春日や昭和の味のナポリタン

    籾殻焼く一直線の尾に夕日

        利府町
    山も田も眠りて鼻取地蔵かな

        輪王寺
    風のなきに紅葉の落ちて寄せ仏

    寄せ仏を行ったり来たり雪蛍

    海難救助無明の闇の寒昴



        蟹 田         渡 辺 誠一郎


    隻眼に光あるなら寒昴

    野垂れ死も華の一つや霜雫

    仙台大橋橋脚跡の日永かな

    大祖父に遺言の噓冬木の芽

    底冷や法螺貝のごと工学部

    冬銀河あられもないは奈辺

    墓石を啄む昨日の寒鴉

    蟹田から風に遅れて冬鷗

    極月や善知鳥の声になりきれば

    一山の楚々とありけり寒桜

    駄句となる絶句は残り枯葎

    血を思う薄氷を踏むときは

    冬の蝶靴紐ほどけかまわずに

    瞳孔の拡がり見えし冬の湖

    わが息も飽きずに続き鯨汁

    権禰宜の抹香鯨のごとき沓

    コピー機の光馴染めぬ漱石忌

    雨夜の星鼬の闇の隙間から

    ひだる神憑くや寒暮の外神田

    寒日和卑猥な一句口を出て




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