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2018/4 №395 特別作品
冬 芽 日 下 節 子
寒晴や午後の日差しのやはらげり
春を待つ土手を歩くも縁かな
山嶺はいつも無言や冬木の芽
冬芽みな祈りのかたち青き空
いにしへに触れて冬芽の艶増せり
冬枯れの真中に光り桜樹の碑
桜樹碑はさくら寄贈者碑なりけり
寄贈者に高山開治郎風光る
自づから植ゑし桜木千二百
開治郎の偉業一目千本桜なり
桜千本いつの世までも架け橋に
桜樹碑に伏してあざやか冬の菊
冬ざれの木の間を縫うて川光る
川あれば向う岸あり影冴ゆる
支へ合ふ桜冬木と鳥たちと
鴨引くや白石川に声落とし
振り向いてなほ近づきて冬桜
冬桜無常の光あふれしめ
華やかに咲いて淋しき冬桜
郷土愛あふるる冬芽天に満つ
半ドン 坂 下 遊 馬
ものの芽の膨らむ音や夜の街
終電の過ぎて駅舎の余寒かな
水平線も春満月も浮力あり
二月二十日青鮫が海に帰つた日
半ドンの土曜日ありし猫柳
春の星一茶と兜太の長談義
荒凡夫にこれからなれるか春疾風
街灯の下の閃光斑雪
風花や海に降る言霊のあり
啓蟄や地球も人も水となる
雪嶺に留まる夕日鳶の空
おぼろ月子規の好みし羽二重団子
狼の天井絵にも春の風
ひたひたと芽吹きの匂ふ闇の中
町一つ攫ひし津波春の半島
寡黙なのは時代遅れか犬ふぐり
核家族ばかりの家族鳥帰る
林間に集まる夕日亀の鳴く
薄氷や山椒魚の口が開く
八十四名の囁き春の雪
年の瀬 古 川 修 治
木枯の趣くままに鳩の旅
雲間よりブランコ照らす冬の月
天井を突き抜く気合い寒稽古
車内まで追いかけてくる春嵐
道端の冬のたんぽぽ昼下がり
ロッカーの中に集まる静電気
霜柱足跡二つ通学路
騒音でふと目を覚ます年度末
年越の神社に並ぶ屋台かな
山奥に時計を置いて春を待つ
薄雲に半分隠れ冬の月
街々を訪れている除夜の鐘
布団から出られぬ子ども春遠し
花粉症夜明けの悪夢去りにけり
夕時雨駅前一人立ち尽くす
粉雪の後追いかけて散歩道
午前二時猫も驚く冬の雷
雪女南国向かう深夜バス
小春日の風吹きぬける山の朝
春一番土曜の昼のブランコに
不知火抄―悼・石牟礼道子
武 良 竜 彦
国肥えて不知火海は病みしまま
還るべき海と思えど海の病む
奇病のウルツばい礫の下の里の春
※「ばい」=「よ・だよ」の水俣弁。
工場の名はチッソ愛猫はミイ
会社行きさんという加害者の朝饟かな
※「会社行きさん」=チッソの工員に対する揶揄的敬称語。
猫ミイは魚が好きで弑されし
ニッポンは加害列島春疾風
水俣をミナマタと書くなフクシマも
うたがあり花あり死者の円居には
経帷子の朱印か揺れる不知火は
魚獲り名人の兄様は晩酌の焼酎呑んで「このごろ舟に居るときも体の震うとぞ、おかしかね」チ
言わすけん、オラ言うたと「そりゃあアニさん、焼酎の呑み過ぎばい」チ笑ろたと母は言うのだ。「ア
ニさんな、会社川が百間港に注ぐ汐留め辺りに舟を繋いでおくと牡蠣殻が落ちて助かるチ話しとら
した」と母は言うのだ。「銛で魚(イオ) ン獲れて獲れて、魚どんの酔つぱらったごたるとぞ、魚喰う
た猫は地べたバ転げ回って狂い死んだ」と伯父が泣いたと母は言うのだ。「そのアニさんも、ゴムの
ごつ伸びたり縮んだりして死なしたとよ」と母が話して聞かせてくれた。
後日、私が飼っていた兎が同じような死に方をした。チッソ会社の工場排水が海に注ぐ辺りに豊
かな草地があり、そこの草に毒が溜まっているとも知らず与え続けたせいだ。
こうして私は命の加害者になった。その痛みと絶望に言葉を与える方法を『苦海浄土』に教えても
らった。石牟礼道子さん、合掌。 (竜彦)
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パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
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