小 熊 座 2019/3   №406  特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る


 










      2019/3    №406   特別作品



        波 動         布 田 三保子



    滑空の鳶のまなこや冬岬

    鳶とわれ心音二つ冬の海

    魂を鳶に預けて北風に乗る

    海風にじやれつき止まぬ枯芒

    冬浪は岩肌を滑る龍の爪

    一音に始めと終り寒昴

    羽拡げ冬の日を抱く川鵜かな

    数へ日の猿ぼんやりと人に倦む

    曲線を豊かに豚の日向ぼこ

    角は突くものなり枯草に寝る牛よ

    嘴広鸖一歩の波動冬天へ

    宿舎より顔出す麒麟冬を嗅ぐ

    舌の色見せて笑へり冬の馬

    フラミンゴときどき二脚春を待つ

    切る爪に枯枝を踏む音がする

    数へ日の埃にもある重さかな

    福だるま黒目大きく愛らしく

    清浄な山の空気を福袋

    猿廻し笑ひの渦にゐて哀し

    水琴窟寒中ならば寒の音



        風 花         清 水 紗 倭


    雪霏霏と早くも灯る七ヶ宿

    午後の日矢満ちて眩しき白障子

    軍艦のやうな雪靴脱ぎ散らかし

    初雪や誰か来さうな予感ふと

    葉牡丹の渦に侏儒ゐる気配かな

    風呂吹や食卓狭め三世代

    まだ雪が降るか三日を過ぎたるに

    雪囲尺貫法でまだ測り

    風花やむかさり絵馬の美男美女

    冬桜古備前の壷溢れをり

    二発目に少し間のあり冬花火

    おたまやも伯爵邸も吹雪中

    まつろはぬ米沢気質雪灯籠

    切山椒城下言葉に京訛

    冬の雨唇赤き菩薩像

    茶の花や古き二の蔵三の蔵

    雪降る音ビニール傘の上もまた

    年の市擂粉木一本買ひ出して

    歳晩や食はず嫌ひが鯉を煮る

    寒昴明日の運勢など知らず



        冬の浜         田 村 慶 子


    片隅の浮き玉瓦礫雪催

    避難道三度振り向き冬の海

    冬凪の船を降りればおとうさん

    赤藻屑をワッサワッサとしばれるよ

    滑り出す船は冬日のど真ん中

    赤藻屑の山と漁師と冬の雨

    掘り炬達血の繋がらぬ脚と脚

    北風が舳先を揺らす船溜り

    冬の雲町民バスの停留所

    磯の香の𠮷津隧道冬ざるる

    舫い杭ばかりにょきにょき時雨雲

    極月のでこぼこ集合写真かな

    牡蠣鍋のグツグツグツと時逝けり

    玄関の猫の一瞥師走かな

    暮れかけし浜の一日や木守柿

    黙黙と荷揚げの背中暮れ早し

    時雨雲潮の匂いのバスが来る

    塩辛き風に悴む手ありけり

    海風の枯葦原に紛れ込む

    気まぐれな空みちのくの冬の浜





パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved