小 熊 座 2019/5   №408  特別作品
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      2019/5    №408   特別作品



        春の山         郡 山 やゑ子


    三角になれぬおにぎり春の山

    薔薇の芽やサプリメントの溢れ出し

    連翹の枝跳ね返り天を指す

    掌の桜耳朶ほどの冷たさで

    春寒や文字掠れたる印刷機

    溝徐々に深くなりたる春愁

    棘刺る油断なりけり木瓜の花

    天井を這ひて下見る春の夢

    母の春二十人目のひ孫抱き

    あしたから腹八分目芹・薺

    息深く吸ひて桜の吐息かな

    身勝手に生きてきました春の雲

    拭ひても拭ひても霾るや

    桜描く男の決意見てゐたり

    心通わぬ人を思ひぬ春の雷

    泣きさうな空をあやせし木蓮花

    春山に手櫛を入れし日差しかな

    春寒し蹠・掌戸惑ひぬ

    大空に花粉の川や青葉山

    鶯餅食べたし桜餅選ぶ



        落雲雀         草 野 志津久


    冬の福島兜太鬼房熊のごとし

    福島に兜太在りし日梅真白

    兜太鬼房の見し白鳥も帰りけり

    会えざりし鬼房なれば穴子寿司

    一匹の狼がまだついて来る

    福島に生まれし理由つくしんぼ

    春の海原子炉闇を吸いて吐く

    祈りにも色ありランドセルは青

    草萌えるそこは一旦土葬の地

    少年の歌う君が代水仙花

    手を離す時雛は空を仰ぎけり

    こなごなに踏まれそういう物か蜂の巣

    飛び越せぬ春の女神の深き臍

    花びらもどこかに乗せて夜の貨車

    春の月家売る時は星も付け

    惜春や隣の庭の三輪車

    丁寧に飛びて置去り落雲雀

    聞かれてはならぬため息初蝶に

    分度器の形に心春の水

    すみれ摘む不幸ではないと思いつつ



         椿          伊 澤 二三子


    青空を引き寄せてゐる「藪椿」

    「白玉」は初午詣の植木市

    「曙」は門外不出の肥後椿

    百選に「沖の波」あり春フェリー

    春一番達人名指す「京誉(きょうほまれ)

    「日光(じつこう)」「がつこう」梅芯咲きの白と赤

    「蝦夷錦」空をひびかす伎芸天

    「光源氏」壺に仲間と講座聞く

    分身の椿の銘に「玉霞」

    金沢の茶花名花や「西王母」        
「 」内は椿の銘


    
 発端は、戦後の小学時代友の家へ遊びに行き真赤な山椿が新鮮であった。又三十代に高校

     職場の先輩に五色八重散椿の実生を戴き、以後カタログマニアとなる。椿百選を試みたが風土

     と体験不足により敵わなかったが、苗木は家の廊下に渡り板を敷き成長しては地植えし五十種

     余りとなる。伝統椿が多い。実生からは突然変異が起こり易く名無しも若干増えた。椿の原種は

     ① 藪椿 ② 雪椿 ③ 唐椿から成り樹齢は千二百年とも言われ、七百種類の交配種となった。

     俳句にのる季語に白椿、紅椿、山椿、藪椿、落椿、寒椿、侘助などである。代表的な江戸椿に

     は、蝦夷錦、白玉、曙、沖の波、京誉、卜伴(月光)、光源氏、玉霞、西王母、岩根絞、太郎冠

     者、羽衣、春の台、酒中花、獅子神楽、空蟬、迦陵頻など。他に孔雀、小侘助に一子、一休、玉

     の浦など。

     タブレットを開けば写真で解る時代でもある。

      落椿そこにわが句を追ひつめぬ 加藤楸邨

     お終いにこの句の力に委ねたい。

                                                          (二三子)






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